
掲載:2021年 vol.40

お話を伺った先生
医療法人 博文会 児玉病院
院長・副理事長
児玉 直也 先生
1986年、和歌山県立医科大学第3内科入局。済生会和歌山病院、和歌山県立医科大学を経て、1999年 医療法人 博文会 児玉病院勤務。2010年、院長に就任。日本内科学会・日本腎臓学会会員、日本透析医学会専門医。慢性腎臓病の保存期から透析導入後も、一人ひとりの患者さんに寄り添い、テーラーメイドの治療を実践されている。
CKDから透析導入後のケアまで、長い治療の中で信頼される関係づくりを目指す。
近年、CKD(慢性腎臓病)から透析を導入される患者さんの平均年齢は、治療の質の向上をはじめ食事・運動などの生活改善により高くなってきています。特に和歌山県は全国の中でも高齢化が進んでおり、患者さんの体力や環境に合った治療や透析方法を選択することが大切だと考えられています。
和歌山市の児玉病院では、慢性腎臓病の保存期治療に力を入れており、その後の透析導入についても、一人ひとりに合わせて手厚くサポートしています。「腎臓病の診断時から、治療はもちろん日常生活の指導も含め、長くお付き合いする患者さんが多く、信頼して何でも相談していただきやすい関係づくりを目指しています。それが患者さんにとってもより良い透析生活につながると考えています」と院長の児玉直也先生は話します。
より良い治療選択と無理のない透析生活をきめ細かくサポート。
慢性腎臓病の患者さんが透析導入が必要になると、時期を見据えながらさまざまな治療方法について詳しく説明します。血液透析や腹膜透析、腎移植についても紹介し、住んでいる地域や仕事、家庭環境を考慮しながら、ご家族とも相談して最適な治療方法を選択。特に腎移植は、地域の基幹病院とも連携してサポートします。また選択する方は少ないものの、希望があれば在宅透析の相談にも応じています。「年齢が若い患者さんには、腎移植の登録を案内します。透析を希望される場合は、仕事をされている方が多いので、腹膜透析をすすめることが多いですね。その後数年を経て、ハイブリッド透析※1、そして血液透析へ移行していきます」と児玉先生。
透析が始まると、食事管理が特に大切になってきます。導入前の保存期から管理栄養士による栄養指導を始めますが、やはり重要なのはリン(たんぱく質)やカリウム、塩分、水分を控えること。中でもリンと水分は気を付けていても摂り過ぎてしまう方が多く、制限の必要性を丁寧に伝えます。自宅の食事では食べても良い量がわからないという方には、数日間の教育入院をしてもらい、その間に食事をはじめとする生活習慣を学び、身に付けていただくというフォローまできめ細かく行っています。
また、食事管理とともに運動も推奨しています。以前は、透析患者さんはあまり運動をしない方が良いとされていましたが、現在は高齢者のサルコペニアやフレイル※2が問題となっており、透析患者さんも例外ではありません。当院には理学療法士も在籍しており、無理のない運動を指導しています。児玉先生は「透析時間に軽く体を動かすのが良いですね。4時間以上のまとまった時間がありますし、医師やスタッフも患者さんの様子に異変がないか見守ることができるので安心です。透析を開始して血圧が安定してくるタイミングで、声をかけています」。最初は数人の患者さんのみ参加していましたが、刺激を受けて一緒に運動を始める方が増えていると喜びます。「特に高齢の方は、今から筋力を上げることは難しくても、維持することが重要です。10メートル歩行(10メートルを歩くのにどれぐらいの時間がかかるか)や片足立ち、握力などを定期的に測定し、体力の衰えがないかチェックしています」。
そして、合併症を防ぐことにも注力しています。例えば近年増えている糖尿病性腎症から透析を導入した患者さんに対して、当院ではかなり以前からフットケアを重視し取り組んできました。わずかな傷でも潰瘍や壊疽につながる可能性があるため、タコやマメの処置だけでなく爪切りも当院で行い、傷やケガなどの確認も欠かしません。
※1 ハイブリッド透析…腹膜透析では透析が不足する場合に、透析量を増やすために血液透析を追加し治療する方法。
※2 サルコペニア・フレイル…サルコペニアとは、加齢や病気によって筋肉量や筋力、身体機能が低下すること。フレイルとは、サルコペニアなどを経て生活機能が全般的に低下した状態。

食事の支援やフットケアなど、全国でも早くに導入してきたという児玉先生。患者さんはもちろん、ご家族の安心にもつながっている。

リハビリテーション室
患者さんのご家族を支え、治療や介護の負担・不安にも応える。
1957年に開業し、和歌山県でも早くに透析治療を開始した当院では、こうした長年の臨床経験や知識に基づく手厚い治療に加え、患者さんやご家族の要望に応じてさまざまなサポートを柔軟に取り入れてきました。
食事を希望する患者さんには、専属の管理栄養士による監修のもと、栄養管理を徹底したお弁当を用意しており、おいしいと大変好評です。またご自身での通院が難しい方には送迎サービスも実施。ご家族に対する支援も充実しており、連絡ノートを作って患者さんの様子や注意事項を共有するほか、例えば自宅で食事を作ったり介護ができない時は、患者さんの一時入院をすすめ、ご家族の負担を図ることもあります。「透析治療は長期にわたるものなので、日々の生活で予測できないことが起こったり、看病のお疲れが出ることもあるでしょう。そんな時には気軽に相談してほしいですね」と児玉先生は話します。
こうして多くの患者さんから信頼され、和歌山県の透析治療において大きな役割を担う児玉病院は、2020年5月に移転し、個室設置や感染症対策を強化するなど、さらに安全で快適な施設へと進化しました。児玉先生は、「患者さんには、しっかり食べて運動し、長時間の透析と必要に合わせたお薬で、長く元気な生活を送っていただきたいと思っています。私たちは一人ひとりの患者さんに合わせたテーラーメイドの治療や環境をご用意し、全力で支えていきたいです」と今後の抱負を力強く語ってくださいました。

明るく清潔感あふれる院内。透析室は一面が見渡せるので、患者さん一人ひとりの様子がわかりやすい。特別室は準個室になっており、プライバシーに配慮できるほか、インフルエンザなどの感染症対策の個室も別に完備されている。
チーム医療の現場の声 患者さんの立場に立った、きめ細やかなケアが信頼を集める。
児玉病院では、さまざまな職種のプロフェッショナルが、透析患者さんの治療を支え、日々の生活にも気を配っています。
医療技術部の有馬三喜さんと看護部の辻内政行さんは、いつも心がけていることについて「患者さんの立場に立って考え、信頼していただける関係づくりを大切にしています」と話します。患者さんの来院時には必ず一人ひとりあいさつをしながら表情を見て、体調は良いか確認します。また穿刺には特に気を配り、緊張感をやわらげながらスムーズに行うようにしていると言います。患者さんの体調や様子は、院内のカンファレンスで医師・スタッフが共有。体重や血糖値のコントロール状態をはじめ、例えば在宅ケアの状況など大変細かな点まで全員で情報を管理するようにしています。「私たち以外にも薬剤師や理学療法士、管理栄養士、訪問看護師など、幅広い職種のスペシャリストと連携しながら、チーム医療に取り組んでいます」と有馬さん。こうしたきめ細かな児玉病院のケアは地域でも評判で、将来透析を見据えて見学に来られる方や、全国からの医療従事者の視察も多いと言います。辻内さんは「私たちは透析治療だけでなく、フットケアやお食事の用意(お弁当)、リハビリなど、患者さんを支えるさまざまなケアやサポートを行っています。当院を選んで良かったと言っていただけると、本当にうれしいですね」。患者さんのQOL向上に心を砕き、寄り添うチーム全員のケアが、厚い信頼を集めています。

(左)医療技術部 臨床工学課 課長 有馬三喜さん
(右)看護部 透析室 主任 辻内政行さん

毎年3月の第2木曜日の「世界腎臓デー」には、近隣の商業施設で、CKDの啓蒙活動を行っている。
お問い合わせ
医療法人 博文会
児玉病院
【診療科】 内科・腎臓内科・循環器内科・消化器内科・内視鏡内科・ 人工透析内科・リウマチ科・膠原病リウマチ内科・整形外科・リハビリテーション

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