
2016年 vol.23 掲載
「透析食とは何か」をきちんと知り、
配慮しながらもしっかり食べましょう。
地震や洪水、津波といった災害が起こった時、避難先の環境は平時と大きく異なり、また手に入る食料も限られる場合があります。「何をどれだけ食べれば良いのか」「日頃から用意しておくと良いものはないか」と不安に感じる方も多いと思います。
災害時の食事について考える前に、まずは「透析食」について振り返ってみましょう。透析食のガイドラインは、基本的に4〜5時間の透析を前提に、数値が設定されています。体重1kg当たり、エネルギーは約30〜35kcal、たんぱく質は約1gが基準です。実は、この数値は健康な人が推奨されている値とほぼ同じで、透析患者さんだから少ないというわけではありません。三大栄養素(たんぱく質・脂質・炭水化物)については、エネルギーを確保するために、しっかり摂取することが大切です。

しかし、透析食が一般食と大きく異なるのは、「リン、カリウム、ナトリウム(食塩)、水分」の摂取量を控えなければならない点です。これこそ透析食が「制限食」といわれる理由であり、患者さんはこの点に十分注意して食品を選ぶ必要があります。
まず、食品のパッケージなどに表記されている栄養成分表示を確認しましょう。「エネルギー・たんぱく質・脂質・炭水化物」は必ず表記されています。ナトリウムは「食塩相当量」として記載されている場合もあります。ただ、リンやカリウムなどは表記が義務付けられていないため、記載されていない商品が大半です。原材料などを確認して摂取量に注意しましょう。また、日頃から用意しておく防災グッズの中に、前号でご紹介した「食品の成分が簡単にわかるガイドブック」も準備しておくと、さらに安心です。持ち運びしやすいミニサイズのものが特におすすめです。
次の章では、「食事をする上で特に注意が必要なポイント」と、災害に備えて「用意しておくと便利な食品」をご紹介します。

災害時の食事で特に注意するポイント

おにぎり、カップ麺などは主に食塩の摂り過ぎに注意。
災害時、個人で購入したり避難所で配られることが多いのが、おにぎりとインスタントのカップ麺です。
おにぎりは、炭水化物の米が主な食材で、エネルギー補給に適した食品ですが、気になるのは食塩です。塩むすび(具のないおにぎり)であっても、白米と同じ感覚で食べてしまうと、食塩を摂り過ぎることにつながります。また、おにぎりは大抵その中に具材が入っています。米をおいしく食べるために食塩を効かせた味付けになっているほか、梅干や昆布などカリウムが気になる食材や、鮭やいくらなどリンが多く含まれる食材が使われているのも特徴です。
インスタントのカップ麺で注意が必要なのが、リンと食塩、水分です。麺にはリンが含まれているので、可能であれば麺を戻した湯は捨て、新しい湯でスープを溶く方が良いでしょう。そのためにも、カップ麺はスープが別添えになっているものを選ぶことが大切です。そうすれば、加えるスープの量を自分で調節することもできます。さらに、食事の時には、できるだけスープは残すようにしましょう。食塩と水分の摂取を抑えられます。

飲料は、水分量はもちろん、カリウムと食塩にも気を付けて。
食品だけでなく、飲み物にも注意が必要です。飲料は、まず水分量の点で飲みすぎないように配慮しなくてはいけません。また、お茶・野菜ジュース・スポーツ飲料といった飲み物は、食塩やカリウムなどが含まれているため、二重に気を付けることが大切です。
お茶は、緑茶や烏龍茶などどのような種類でもカリウムが含まれています。商品によって異なりますが、一般的に緑茶であれば100mlあたり約10〜15mg、ウーロン茶であれば100mlあたり約10mgのカリウムが含まれています。ただし、特保(特定保健用食品)のお茶やカテキンなどの成分が濃いことを謳っている商品は、カリウムが他の商品の2倍以上含まれていることが多いので、避けた方が良いでしょう。

ビタミン補給の目的で、配られることが多いのが野菜ジュースです。お茶に比べてカリウム量が大変高く、一般的に100mlあたり150〜280mg含まれています。また野菜ジュースも、成分が濃いことをメリットとしている商品は、その分カリウム量が高くなります。
フルーツジュースは、大きく分けて「果汁100%」とそうでないものがあります。果汁100%のものはカリウム値が大変高く、りんごは100mlあたり約110mg、オレンジは100mlあたり約140〜180mg含まれています。これに比べて果汁100%でないものは、一般的に100mlあたり約20〜60mgと少なめです。
スポーツ飲料で気になるのは、食塩です。100mlあたりの食塩が約15〜50mgのものが多く、中でもアミノ酸を重視している商品は食塩量とともにリンが多いものも見られます。
ところで、もっとも手に入りやすい飲料水ですが、ミネラルウォーターの成分は国内で採水されているものであれば、それほど成分に違いはありません。水道水も同じです。地域によってわずかな違いはありますが、ほとんど変わりがありません。ちなみに、非常用として水を用意する方も多いと思いますが、断水時のためではなく避難時に持ち出すためであれば、500mlのものを数本用意しておくのが便利です。2Lサイズなどは重くてかさ張るため、いざという時に持ち出しにくいのです。また、医療機関はもちろん、現代の日本では非常時にまず水が供給されるので、自宅から大量に持ち出す必要はないと考えます。自分の命を守るために、必要なものや優先順位の高いものを知り、準備しておきましょう。

緊急時のために用意しておくと便利な食品

緊急時のために用意しておくと便利な食品があります。まずエネルギー補給のためにおすすめなのが、「低リンミルク」、「カロリーメイトなどのバランス栄養食」、「フルーチェ」です。
低リンミルクは、リンが抑えられているのはもちろん、カリウムを少なくしながらビタミンをバランス良く含んでいます。そういう意味では、サプリメントなどを飲むよりはるかに良いでしょう。液状と粉末状のものがありますが、災害時用には粉末状を用意しておけば、保存期間が長い上、必要な時にさっと水で溶いて飲むことができます。
カロリーメイトなどのバランス栄養食も、体に必要な成分が含まれている他、最近では多くの種類が発売されおり、味のバリエーションが豊富なのも魅力です。
フルーチェは、長期間の保存が可能で、手軽にカロリー補給ができて便利です。通常の牛乳ではなく、低リン乳を加えれば、リンを抑えることができます。

また食塩や水分の調整ができる食品として便利なのが、フリーズドライや粉末状のスープ・みそ汁です。パウチ状のレトルト食品は、すでに調味がされて完成しているので、「食塩だけを控える」といった工夫ができません。同様に、水分量を調整することもできません。しかし、フリーズドライや粉末の食品であれば、食べられる分だけを、好みの湯量で溶いて食べることができます。スープが別添えになったインスタントのカップ麺も同様に、調理方法を工夫すればリンや食塩、水分量を抑えることができるので大変便利です。
災害は突然やってくるものです。日頃の透析食の知識を基本に、こうした食品を上手に取り入れて、もしもの場合に備えましょう。


お話を伺った先生
川崎医療福祉大学 医療技術学部 臨床栄養学科 特任准教授
市川 和子 先生
腎臓疾患の患者さんや透析をされている方を中心に、栄養指導を実施。チーム医療の一員として、栄養面から患者さんをサポートされています。臨床透析や栄養ケアに関する著書も多数。