毎日の食事と排泄を見直す! 新・生活習慣

2014年 vol.16 掲載

生活習慣チェック

食べる順番によって、リンやカリウムの吸収率が変わる。

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 上のチェックリストのA項目からわかるのは、食事における「食べる順番」と「噛む」習慣です。

 

 一般的に、食事の際は野菜や汁物から食べ始め、次に肉や魚、卵などのたんぱく質、最後に炭水化物を食べるのが良いと言われます。それは、このような食べ方をすると、血糖値の上昇がゆるやかになるためです。炭水化物などに多く含まれる糖分と、それを細胞に取り込む働きのあるインスリンというホルモンがうまく働かなくなった状態を「高血糖」と言います。空腹時に、糖分の多い食品を最初に食べると、血糖値が急激に上昇します。そして、この高血糖の状態が慢性的に続くと、糖尿病の発症につながったり脂質異常症になりやすくなるのです。

 実は、このような食べ方で変化するのは、血糖値だけではありません。リンやカリウムの吸収率も大きく異なります。同じ量を摂取しても、吸収率が少なければ、体への負担も軽くなります。食事の際は、ぜひ食べる順番に気をつけてみてください。

脳を活性化させ、口の中も衛生的に。

 先ほどご紹介した「食べる順番」と合わせて、食事の際にぜひ取り入れていただきたいのが、「よく噛む」という習慣です。細かく砕くことで消化器官への負担を減らすという目的もありますが、この噛むという行為も、リンやカリウムの吸収率を下げ、血糖値の上昇をゆるやかにするのです。

 

 よく噛むことは、他にも体に良い効果があります。まず1つ目に、脳が活性化すること。特に言葉や記憶、聴覚に関わる「側頭葉」という部分を刺激します。側頭葉は、認知症にも関係する場合があり、日頃からよく働かせておくことが大切です。

 

 2つ目に、口の中を衛生的に保つことができます。通常、私たちの口の中には「口腔常在菌」という菌が存在しています。抵抗力や免疫力が低下したり、口腔内が乾いた状態が続いたり、歯の手入れなどを怠ると、増殖してカビが発生しやすくなります。食べ物を噛む際にでる唾液には、殺菌作用があります。そのため、水分補給や歯のお手入れをしながら、食べ物をよく噛んで唾液が多く出るほど、口腔内をきれいにしておくことができるのです。

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心身を健康に保つために、
「よく噛む」習慣を身につけましょう。

 このように、噛むことはとても大切な習慣ですが、さまざまな理由で栄養剤を胃や腸といった器官から直接吸収せざるを得ない患者さんもいます。その場合でも、私は一旦食事を口に入れて噛んでもらっています。実際の栄養は胃や腸から直接取り入れるので、噛んだ食事は吐き出してもらいます。私はこれを「咀嚼排出法(そしゃくはいしゅつほう)」と呼んでいますが、嚥下が困難な患者さんにとっては食べたような実感がわき、脳を刺激することにより身体の疾患のない器官も本来の機能を果たすことができます。それほど、噛むことは心身にとって重要な行為だと考えています。

便秘を慢性化させないよう注意。毎日必ずチェックして。

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便秘はとても危険な状態。
できるだけ早めに解消しましょう。

 さて次に、冒頭にあるチェックリストのB項目からわかるのは、「排泄」に関する習慣です。

 

 透析を行っている患者さんは、便秘になる方が多くいらっしゃいます。しかし、水分の摂取や下剤の使用にはさまざまな制限があり、特に排便のコントロールは難しいと言えます。

 

 また便秘自体が一つの習慣となり、軽視される場合もあります。しかしこれは、大変危険なことで、早めに解消する必要があります。なぜなら「便秘」は、排泄されなければいけない成分が体内に留まっている状態であり、腎臓の機能が正常ではない透析患者さんにとっては、特に危ない状況だからです。

 これは一つのケースですが、不眠で悩む患者さんが、医師に相談したところ、睡眠薬が処方されました。「眠れない時だけ一時的に服用するように」という指示のもとでしたが、この患者さんは大変まじめな方で、眠れる日でも毎日服用してしまい、消化管の活動が低下して重症の便秘状態に陥ってしまいました。と同時に排泄しなければいけない成分が体内に蓄積してしまったのです。このケースに対し、下剤を用いて排便を行うと、カリウムやリンなどの数値が一気に正常に戻り、患者さんの表情も元気になりました。便秘はそれほど注意が必要な状態といえます。


 排便コントロールのためには、適度な運動と、食物繊維の多い食材を選ぶようにして、しっかり噛んで摂取して、腸の働きが良くなるように努めましょう。日頃から、食事に配慮するのはもちろん、排泄にも注意を向けるようにしてください。

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市川 和子 先生

お話を伺った先生

川崎医療福祉大学 医療技術学部 臨床栄養学科 特任准教授
市川 和子 先生

腎臓疾患の患者さんや透析をされている方を中心に、栄養指導を実施。チーム医療の一員として、栄養面から患者さんをサポートされています。臨床透析や栄養ケアに関する著書も多数。