
「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。
腹膜透析と血液透析
甲南病院 副院長 血液浄化・腎センター長
藤森 明 先生
人工透析治療(透析)には「腹膜透析」と「血液透析」の2種類があります。一般的に私たちが「透析」というと思い浮かべるのは「血液透析」ですが、「腹膜透析」とはどのような治療なのか、藤森明先生に教えていただきました。

生活の自由度が高い「腹膜透析」
― 「腹膜透析」と「血液透析」はどのように違うのでしょうか。
「血液透析」は透析装置(ダイアライザー)を使って行うのに対し、「腹膜透析」はお腹にカテーテルを通し、自分の腹膜を利用して血液をろ過するものです。自分自身で行うという負担は大きいのですが、大がかりな設備がいらないのでご自宅や職場で行うことができ、治療通院回数が月1回と少なくてすむというメリットがあります。血液透析は体内に蓄積された毒素を抜く力が腹膜透析よりも優れているものの、週に3日、4〜5時間程度の透析を病院で受ける必要があります。そのため、透析の日は時間的な拘束が大きくなります。一方、腹膜透析の方が生活の自由度は高く、透析が始まっても今まで通りと近い生活ができます。
腎機能を少しでも維持できる
― 体への負担という点では、どうでしょうか。
腹膜透析と血液透析のどちらが長く寿命を保つことができるか、というデータはまだ出ていません。しかし、血液透析を始めると腎機能が保てず尿も出なくなってしまうため、残されている腎機能を保つという点では腹膜透析の方が良いと言えます。腎臓の残存機能がより多いほうが、患者さんの体調も血液検査のデータも良いのです。
まずは腎機能を少しでも保てる腹膜透析から始め、腎機能低下が進んだら血液透析に移行する方もいらっしゃいます。50代で透析導入となり、「まだ10年くらいは仕事を続けたい」という患者さんには腹膜透析をお勧めし、定年後、通院の時間ができたら血液透析に移行する、というパターンもよくあります。

「CAPD」と「APD」
― 働いている方の場合、どのように腹膜透析を行うのですか。
まず、患者さんに入院していただき、お腹にカテーテルを埋め込む手術を行います。その上で患者さんの生活やご希望に合わせて、CAPD(連続携行式腹膜透析)かAPD(自動腹膜透析)を選んでいただきます。
CAPDは、透析液が1.5〜2ℓ入ったバッグと空のバッグの2つ(ツインバッグ)をお腹のチューブにつなぎ、透析液を注入して腹膜で老廃物や体にたまった水分を取り除いて、汚れた透析液を空のバッグのほうに出すというものです。約40分間の透析を1日に3〜4回行います。働いている方の場合は、朝の出勤前、お昼休み、夕方帰宅後と寝る前に透析を行うというのが標準的なパターンです。大がかりな装備はいらないとはいえ、衛生管理に留意していただき、職場でもホコリのないきれいな部屋で行うことが大切です。その意味では職場の方に治療を理解していただく必要がありますね。
一方で、APDは機械を使うやり方で、夜間の9時間で機械を使って透析液を出し入れする、というものです。昼間の15時間は透析液をおなかに入れっぱなしにすることが多いです。ただ、自宅でゆっくり過ごす時間を9時間確保できないといけないので、忙しい方には向きません。医師から見ると治療効率としてはCAPDのほうが確実なのですが、CAPDよりも面倒なことが少ないということから、APDを希望する患者さんが多いです。
高齢の患者さんが続けやすい「血液透析」
― 日本で血液透析が健康保険適応になったのは1967年と古く、腹膜透析は1984年です。腹膜透析は比較的新しい治療法ですが、現在も日本では血液透析を受けている方が圧倒的に多いようです。
現在、日本では32万人の患者さんが血液透析を受けているのに対し、腹膜透析を受けている方は約1万人と少数です。
私たちは腹膜透析ができそうな患者さんにはお勧めするようにしているのですが、それでもあまり利用者が増えない背景は患者さんの「高齢化」です。最近は新規の透析患者さんの年齢は75〜80歳が最も多く、80代になって透析を始められる患者さんも多いのです。腹膜透析は自分の治療を自分でしなければならないので、高齢の方にはお勧めしにくいことが多いです。糖尿病性腎症による神経障害で目や手先が不自由な方も、難しい場合が多いですね。ただ、血液透析を受けていた高齢の患者さんが寝たきりになり通院が難しくなったら、自宅で透析が受けられる腹膜透析に切り替えて、訪問看護師やご家族のサポートを受けながら安らかな生活を過ごしていただいてはどうか、という考え方も広まってきています。
― どの病院でも2つの透析を受けられるのですか。
実は現在のところ、腹膜透析を受けられる病院には限りがあるのが現状です。一般的な透析クリニックは血液透析が主ですし、大きな病院や大学病院でも腹膜透析には対応していないところもあります。ただ、国の方針として在宅医療が重視されており、在宅でできる腹膜透析を推進していく方向性にあります。今後は腹膜透析も徐々に増えていくかもしれません。

患者さんへのメッセージ
「もう透析を始めないといけません」と医師から言われた時、大きなショックを受けられる方も多いでしょう。しかし、透析技術は昔に比べるととても進化しています。透析が必要な段階まで来たことは残念なことですが、人生はこれからも続いていきます。ぜひ医師と相談して、ご自分に合ったよい透析治療を受けてください。そして、楽しく有意義な人生のためにがんばりましょう。

お話を伺った先生
甲南病院 副院長
血液浄化・腎センター長
藤森 明 先生
[ 病院のご紹介 ]
病院名 | 一般財団法人 甲南会 甲南病院 |
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所在地 | 兵庫県神戸市東灘区鴨子ヶ原1-5-16 TEL.078-851-2161(代表) |
診療科目 | 内科、消化器内科、神経内科、緩和ケア内科、精神科、小児科、整形外科、外科、皮膚科、形成外科、泌尿器科、婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科・IVRセンター、麻酔科、病理診断科、血液浄化、腎センター、糖尿病センター、消化器病センター |
Webサイト | http://www.kohnan.or.jp/kohnan/ |