
「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。
これからの腹膜透析
江戸川病院
古賀 祥嗣 先生
今後、日本でも腹膜透析や腎移植が拡がっていくと言われています。これまで腹膜透析を選択することが難しかった患者さんにも治療法選択の幅が広がるのです。いま、腹膜透析のどのような点が注目され、その普及によって透析医療はどう変わっていくのでしょうか。新たな局面を迎えた腹膜透析の最新動向を古賀祥嗣先生にお話しいただきました。

腹膜透析の割合は諸外国に比べて低い
― 日本では腹膜透析(PD)を受けている患者さんはまだまだ少ないと聞きます。
日本の透析患者さん33万人のなかで血液透析が97%を占め、腹膜透析の方は3%にすぎません(日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況2016年12月31日現在」より)。では海外ではどうかと言いますと、米国では10%近くの方が腹膜透析を受けており、また透析治療は腎移植を受けるまでの2〜3年間の過渡的な治療という位置づけで行われています※1。日本とは透析医療のあり方がかなり違います。
日本は海外諸国に比べ腹膜透析が非常に少ないのですが、その主な理由は医療体制、つまり実施できる透析施設が少なかったためです。生存率という点では血液透析と腹膜透析は変わりません。
腹膜透析の特徴
― 腹膜透析の特徴について教えてください。
腹膜透析はダイアライザーではなく自分の腹膜を使います。腎機能を残しておくことができ心臓への負担の少ない、体にやさしい透析治療と言えます。腹膜透析のうち、体に透析液の入ったバッグをつけておく「CAPD(持続携行式腹膜透析)」は24時間、ご自宅に機器を置いて夜間就寝中に透析を行う「APD(自動腹膜透析)」は8〜9時間かけて透析を行います。いずれも血液を介さずに時間をかけてゆっくり行うために心臓への負担が少なく、血液透析の実施中に起こりやすい「不均衡症候群(手のしびれや血圧の低下など)」が起こりにくいという長所もあります。
特に、夜間に行うことができるAPDは、日中働いている人にはメリットの大きい治療方法です。しかし透析量としては血液透析の方が多いので、働く世代の患者さんに対してはより十分に毒素を抜くことができるよう、腹膜透析と週に1回の血液透析を併用する「ハイブリッド透析療法」という方法が主流になっています。高齢の患者さんであれば食べる量が少ないぶん体内の老廃物も少ないので、腹膜透析だけでも十分に毒素を抜くことができます。このように、患者さんに合わせた透析ができることが腹膜透析の長所だと言えます。さらに最近では認知症が血液透析に比べて少ないという観点からも腹膜透析が注目されつつあります。
また、患者さんの食生活についてもメリットがあります。というのは、血液透析では食事からのカリウム摂取が制限され、生野菜や果物をとることができません。しかし腹膜透析を行うと血中のカリウムが減少するため、むしろ生野菜を積極的に食べていただきたいのです。その意味で腹膜透析は、生食を好む日本人の食習慣に合い野菜のビタミン、ミネラルなど健康維持に欠かせない栄養素もとりやすいと言えます。

腹膜透析では「自己管理」が重要
― 患者さんにとってメリットが多い一方で、守らなければならないこともあります。
腹膜透析は患者さん自身の自己管理がとても重要です。勝手に休んだりせずきちんと決められたとおり透析を行うことは基本ですが、それ以外にも自分自身で体調管理をしなければならないことがあります。例えば血液透析では透析後に体重(ドライウェイト)を計測して水分摂取量の指示をしてもらえますが、腹膜透析では日々の体重変動やむくみを自分で管理して、「水を控えよう」「いつもの半分にとどめておこう」などと自分で調節しなければなりません。また、衛生管理も重要です。お腹のカテーテルの出口部からの感染による腹膜炎を防ぐため手を清潔にし、ご自宅のお風呂は湯が汚れていない一番風呂のうちに入るようにします。旅行先の温泉はカテーテルにパウチを貼って入浴し、銭湯はシャワーのみに留めます(公共施設での入浴の可否は地域により異なります)。なお、腹膜透析の排液がにごっていたら、腹膜炎が起きている可能性があります。すぐに透析施設に電話連絡をし、受診するかどうか等の指示を仰いでください。
「在宅医が地域で診る」腹膜透析の時代へ
― 高齢の患者さんが安心して腹膜透析を行うための新しい取り組みが進められているそうですね。
ひとつはITを活用した情報共有システムです。クラウドコンピューティングの仕組みを利用して、患者さんと病院の医師、訪問看護ステーションがつながる遠隔医療のシステムが登場しています。これまでは腹膜透析の状況を患者さんに手帳や紙に記録していただいていましたが、このシステムにより患者さんの様子をスタッフ間で共有でき、何か体調のトラブルが起こったときに主治医と訪問看護師とで対策を協議することもできるようになります。
さらに今後、在宅医(在宅療養支援診療所)と透析専門施設の連携が進められていきます。腹膜透析を含めて日常的な健康状態の管理は在宅医が行い、専門的な対応が必要な場合には透析専門施設がバックアップします。地域格差はあるものの、在宅で腹膜透析を行う患者さんを地域の医師が連携しながら診ていく体制が徐々に整っていきます。ただ、認知症を合併している方が自分で腹膜透析を行うのはやはり難しいです。その場合は療養病床をもつ病院に入院して治療を受けるという方法が現実的でしょう。

患者さんへのメッセージ
透析治療では、自分に合った透析治療を選択することが重要です。CKDステージ4以上になり「そろそろ透析導入」と言われたら、できれば主治医だけでなく、セカンドオピニオンとして別の医師や看護師にも相談してみることをお勧めします。透析施設によっては「療法選択外来」が開設されており、透析に詳しい看護師にじっくり相談にのってもらえますのでぜひ利用してください。
※1 2015 USRDS Annual Data Report Volume 2: ESRD in the United States

お話を伺った先生
江戸川病院
古賀 祥嗣 先生
[ 病院のご紹介 ]
病院名 | 社会福祉法人 仁生社 江戸川病院 |
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所在地 | 東京都江戸川区東小岩2-24-18 TEL.03-3673-1221(代表) |
診療科目 | 内科・神経内科・循環器内科・糖尿病内科・消化器内科・腫瘍血液内科・呼吸器内科・外科・整形外科・(スポーツ医学)・血管外科・心臓血管外科・脳神経外科・頭頸部外科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・呼吸器外科・形成外科・乳腺外科・リハビリテーション科・(ボツリヌス療法等)・麻酔科・(ペインクリニック)・病理検査科・皮膚科・眼科・放射線科 |
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