「在宅血液透析」を知っていますか

「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。

「在宅血液透析」を知っていますか

さやま腎クリニック
池田 直史 先生

 腎代替療法の中で、最も多くの患者さんが受けている「血液透析」は平均して週に3回、毎回4時間の通院が必要です。その血液透析を自宅で受けることができる「在宅血液透析(HHD)」が、一部の透析施設で行われるようになりました。その特徴や受けられる条件、費用負担など、池田直史先生に教えていただきました。

池田 直史 先生

在宅血液透析のメリットは「十分な透析量」

― 現在、どのくらいの方が在宅血液透析を受けていらっしゃるのですか。

 全国で600人程度です。現在約33万人の透析患者さんの中で、施設での血液透析が約32万人と圧倒的に多く、腹膜透析が約9000人。在宅血液透析の患者さんはまだまだ非常に少ないのが現状です(日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況2016年12月31日現在」より)。

― 在宅血液透析のメリットを教えてください。

 在宅血液透析はご自宅で、ご自身で機械を操作して血液透析を行なうものです。夕食後などの時間に治療できるので、仕事を続けやすく、社会復帰しやすいといったメリットが注目されています。しかし、最も大きい特長は、治療を頻回に行なえるので十分に透析でき、体内のたまった毒素がしっかり抜けることにあります。
 一般の血液透析は4時間の透析を週3回行いますが、在宅血液透析では、3時間の透析を週5日行います。血液透析で血液をどれだけきれいにすることができたかを示すHDP(Hemodialysis Product)という指標があり、(1回の透析時間(時間))×(1週間の透析回数)2 で算出します。一般の血液透析のHDPが36であるのに対して、在宅血液透析は75。HDPの数値が高いほど透析効率が高くなり、患者さんが元気に長生きできることがわかっています。

― 合併症などはいかがでしょうか。

 心不全などの合併症は、透析が2日間あいたときに起こりやすいのですが、在宅血液透析は2日間あくことがないので、合併症は起こりにくいです。また、1回あたりの除水量が少なくてすむので、透析中の急な血圧低下などの体調不良も起こりにくいです。食事制限も、カリウムと塩分以外の制限は比較的緩やかです。

池田 直史 先生

在宅血液透析を受けられる条件

― どのような患者さんが在宅血液透析の対象になるのでしょうか。

 在宅血液透析では患者さんご自身で毎回、「プライミング」と呼ばれる準備作業を行う必要があります。実際のところこの煩雑な作業を高齢の患者さんに覚えていただくのは難しいため、当院では65歳以下の透析患者さんで腎移植を選択されない方にお勧めしています。仕事をしながら長期にわたってまだまだ元気に過ごしたい方には適している治療法だと思います。また、安全に透析を行うために、症状が安定していて自己管理ができること、トラブル時に介助してもらえるご家族のいることが前提条件になります。一方、お住まいの環境としては、リクライニングチェアを置いて横になれる広さと、透析液などさまざまな物品を保管できるスペースが必要です。

― 費用負担は?

 透析機器一式は医療施設から貸与され、治療の費用は通院での血液透析と変わりません。当院の患者さんの場合、毎月の負担額は電気代が2000円ほど、水道代は1万円ほどの加算になっています。なお、ご自宅の電気と水道の設置状況によっては、初期費用として配管・電気工事などが必要になる場合があります。

自分自身でシャントに針を刺す難しさも

― 慣れるまで、初めのうちは難しそうですね。

 最初の3カ月間はトレーニング期間です。通院で自宅用の機械を使って透析治療を行いながら、機械の取り扱いや針の刺し方などを習得していただきます。なお、施設により採用されている機械のタイプが異なり、扱いの難易度には差があります。
 トレーニング期間が終わると自宅での治療が始まります。機械の準備作業は15〜20分間ほどですが、慣れてしまえばほとんど問題ありません。しかし、患者さん自身でシャントに間違いなく針を刺すことはなかなか難しいようです。在宅透析開始後も月に1〜2度の受診に加え、定期的に再トレーニングを受けていただき、超音波検査で血管のコンディションを確認しながら、患者さん自身で正しく針が刺せているかどうかを確認します。

― トラブルが起こった場合はどうするのですか?

 トラブルのほとんどは機械のエラーです。トレーニングの中でエラーへの対応方法も学びますが、判断に迷うときや予期せぬことが起こった場合は、担当の臨床工学技士が休日も対応します。当院の場合、夜間は深夜12時までには治療を終了していただくようにお願いしています。
 安全に在宅血液透析を実施するためには、何よりも決められた手順をきちんと守ることが大切です。もし異常を見つけたら自分で判断せず、速やかに病院に連絡するようにしてください。

池田 直史 先生

患者さんへのメッセージ

 在宅血液透析は、透析患者さんが元気に過ごせる時間を延ばすとともに、患者さんの生活リズムによりそう形で治療でき、治療による生活への支障を最小限にする治療だと言えます。まだ普及が進んでいるわけではありませんが、透析導入後も今までとできるだけ近い生活をと願う方には、今後は大きな選択肢となるでしょう。これから腎代替療法を始められる患者さんには、ご自身の体調やご自宅の環境などの条件もふまえながら、ご自分にとってのベストな選択をしていただきたいと思います。

池田 直史 先生

お話を伺った先生

さやま腎クリニック 院長
池田 直史 先生

[ 病院のご紹介 ]
病院名 社会医療法人財団 石心会 さやま腎クリニック
所在地 埼玉県狭山市入間川4-15-20
TEL.04-2900-3333(代表)
診療科目 腎臓専門外来・多発性嚢胞腎外来・バスキュラーアクセス外来・腹膜透析外来
Webサイト https://sekishinkai-sayama-jin.jp/
さやま腎クリニック 外観

さやま腎クリニック 外観

透析室の様子

透析室の様子