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「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。

透析導入後、食事はどう変わる

常磐病院 名誉院長
川口 洋 先生

 透析導入前の治療は、食事療法が基本です。腎不全と診断されてから続けている食事療法が透析導入後にはどのように変わるのか、不安な方もいらっしゃると思います。専門医として長く食事療法に携わって来られた川口洋先生に、食事療法の基本から、透析患者さんの食生活について教えていただきました。

川口 洋 先生

QOLを重視した食事療法へ

― そもそも、腎不全患者さんにとって食事療法はなぜ必要なのでしょうか。

 それをご理解いただくために、慢性腎不全の食事療法の歴史についてお話ししましょう。最初の食事療法は、1941年、イタリアで始められました。低たんぱく食にすれば慢性腎不全の進行による尿毒症の発症を抑えられるというもので、腎不全に伴う症状の予防だけを目的とした“受け身”の食事療法でした。その40年後の1981年、米国・ハーバード大学のブレンナー博士が腎機能を低下させず、透析導入を遅らせるためには低たんぱく食が有効であると発表しました。これを機に、日本でも「低たんぱく食・高カロリー食・塩分制限」を3本柱とする食事療法が導入されたのです。その後もさらにさまざまな研究が行われており、たんぱく質の摂取基準量は変遷しています。

― どのように変わったのですか。

 一般の成人は1日に体重1kgあたり0.9〜1gのたんぱく質を摂取しています。腎不全患者さんの場合、病状によっても異なりますが、基準は0.6〜0.8g/kg(体重)となります。1985年頃からはさらに0.5g/kg(体重)程度に抑えた極度な低たんぱく食も行われています。しかし、近年患者さんの高齢化が進み、たんぱく質摂取があまりにも少ないとサルコペニア(筋肉量減少)やフレイル(虚弱)を招きかねないことから、現在は0.6〜0.8g/kg(体重)に緩められました。
 慢性腎不全の食事療法は、厳しいたんぱく制限で少しでも長く腎機能を保ち、透析導入を遅らせることを第一とする考え方から、QOLが維持され元気に過ごすことを大切にする考え方に変わってきているといえます。

川口 洋 先生

透析導入後の食生活

― 透析導入後は、それまで行なっていた食事療法は変わるのですか?

 たんぱく質の摂取は、健康な人と同程度の体重1kgあたり0.9〜1gに戻ります。透析装置(ダイアライザー)の膜によってたんぱく質が失われるので、その分摂取する必要があるからです。好きなだけ食べてよいということではありませんが、日本人の平均的な摂取量65〜70g程度までなら食べることができます。食べられるおかずの種類が増えると食事の楽しみも増し、食欲が高まる患者さんが多いようです。
 一方、カリウムやリン、塩分については透析導入後も過剰摂取にならないよう、引き続き注意が必要です。

― たんぱく制限が少し緩くなるだけでも、大きく変わる印象ですね。

 透析導入前に食事療法を厳格に守っていた患者さんほど、カルチャーショックを受けたようになります。たんぱく質を摂っても本当に大丈夫なのかという不安から、当初はたんぱく質を摂ることを受け容れられない方もおられます。しかし、時間はかかっても皆さん徐々になじんでいきます。

味噌汁やおかゆも「水分」のうち

― ところで、透析導入後には水分摂取の管理が必要になると聞きます。

 透析患者さんが制限なく水分を摂取してしまうと、体内の水分量が増えてしまい、むくみやすくなります。むくみ(浮腫)は高血圧や心不全のリスクになるので注意が必要です。また、透析1回当たりの除水量が大きくなるために心臓への負担が大きくなってしまいます。
 1日の水分摂取量は、体重などにより異なりますが、目安としては700cc前後です。夏の暑い日は発汗量も増えるので、熱中症予防のためにコップ1杯多めに摂るようにします。注意していただきたいのは「食事水」、例えばおかゆ、スープ、味噌汁などの水分も1日の水分量に含まれているということです。水分過多を防ぐためには、「添加水」と呼ばれるコーヒーやお茶類をできるだけ摂らないように意識することが大切です。

― お祝いの席やおつき合いでアルコールを勧められることがあるのですが…。

 アルコール摂取については臨床試験のデータがないので、一定した見解がない状況です。したがって医師によって意見は異なります。患者さんの病状にもよりますが、週に1〜2回程度、ビールなら500ml、日本酒なら1合までを皆さんと一緒に楽しむ程度であれば良いと思います。ただしお酒も1日の水分量に含まれていることを忘れないようにしてください。また、ビールや日本酒などの醸造酒には若干たんぱく質が混じっていますので、お酒の中ではウイスキーや焼酎などの蒸留酒のほうがよいと思います。

川口 洋 先生

患者さんへのメッセージ

 食事療法は患者さんの体格や病状によっても異なります。主治医の指導を受けるとともに、管理栄養士が透析中に行う個別指導や、栄養相談の時間を積極的に活用するようにしてください。これからも長生きしてよい人生を送るために、よい透析、よい食事療法を続けていただきたいと思います。

川口 洋 先生

お話を伺った先生

常磐病院 名誉院長
川口 洋 先生

[ 病院のご紹介 ]
病院名ときわ会 常磐病院
所在地福島県いわき市常磐上湯長谷町上ノ台57番地
TEL.0246-43-4175(代表)
診療科目外科、内科、小児科、泌尿器科、放射線科、整形外科、腎臓内科、循環器内科、リウマチ・膠原病科、消化器内科、呼吸器内科、婦人科、麻酔科、人工透析内科、リハビリテーション科、救急科、血液内科、乳腺外科
Webサイトhttp://www.tokiwa.or.jp/hospital/jyoban/
常磐病院 外観

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