
2013年 vol.13 掲載
エネルギー摂取や減塩につながる「おいしさ」の工夫とは

「おいしさとは、単に食べ物のもつ味だけでなく、様々な要因が複合的に絡み合って作り出されるもの」。おいしいと感じる要因は、香りやコク、質感、彩り、温度、食事の時間など幅広い。
今回の講演のテーマは、「おいしい低リン食の工夫について」です。キーワードは「おいしさ」と「低リン」の2つ。まずは、おいしさについてお話ししましょう。人間の味覚は大きく分けて4つあります。甘味、酸味、塩味、苦味。これを「四原味」といいます。この4つのバランスが良いこと、ここへさらに「旨味」が加わることなどで、人はおいしいと感じることができます。それぞれの味は、同じ舌でも感じる部分が異なりますが、実は温度によっても感じ方が変わってきます。甘さは温度が低いほど、感じにくくなります。例えばアイスクリームは、冷たいとおいしいですが、溶けると甘過ぎますね。ですから、エネルギー不足の方は温度を低くして食べると、少量でもカロリーを摂取できます。これと反対に、塩味は温度が低いほど感じやすくなります。このように「温度と味覚の関係」を知っておくと、エネルギーや塩分のコントロールに役立つでしょう。
低リン食を心がける理由と食品添加物の落とし穴
もう一つのキーワードである「低リン」についても考えてみましょう。なぜ、腎臓の機能が低下すると、血清リン値が上昇するのでしょうか。リンとカルシウムを比較しながら、お話しします。この2つは大変結び付きが強いのですが、そのうち血中のカルシウムは、腎臓の機能低下に伴いビタミンDの働きが悪くなることで、値が下がってきます。ところが、リンはどんどん吸収され、さらに排出されにくいため、血中濃度が上昇するのです。そのため、食べる段階から量を控える必要があります。食品1gに対して15mg以上リンが含まれていると、「リンが多い食品」と言えます。リンは、肉や魚、卵など蛋白質の多い食品に含まれていますが、肉などは部位によっても異なります。レバーは極力避けた方が良いですが、牛肉のミノ(胃)やアキレスは、リンが少なくおすすめです。
また、食品の成分表示に値としては示されていませんが、加工食品に多く含まれている「食品添加物のリン(無機リン)」は要注意です。腸管からの吸収率が高く、高リン血症に大きく関与します。味噌やだしの素など、和風の調味料は特に気を付けましょう。食品添加物のリンを減らす方法は、以下の3つです。
- 加工食品はお湯に通しましょう。食品添加物が短時間でお湯に溶け出します。そのお湯は必ず捨ててください。
- インスタント麺のゆで汁は、スープに使用しないこと。麺とスープは別に作りましょう。
- 魚肉や練り製品は、下ゆでしてから使いましょう。おでんや煮物も、一度ゆでこぼしてください。
「おいしさ」はもちろんですが、こうした「低リン化」の工夫を積極的に取り入れることで、毎日の食事がさらに充実したものになるでしょう。


お話を伺った先生
川崎医療福祉大学 医療技術学部 臨床栄養学科 特任准教授
市川 和子 先生
腎臓疾患の患者さんや透析をされている方を中心に、栄養指導を実施。チーム医療の一員として、栄養面から患者さんをサポートされています。臨床透析や栄養ケアに関する著書も多数。