
「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。
透析医療を支える地域包括ケアシステム
横浜じんせい病院 院長
山口 聡 先生
現在、医療機関と介護サービス、自治体と住民が協力して、住み慣れた地域で高齢者のくらしを支える「地域包括ケアシステム」の取り組みが各地で進められています。高齢になったとき、生活や介護などの支援が必要になるのは、透析患者さんにとっても同じこと。透析生活を送る高齢の患者さんを支える医療・介護のサービスについて、山口聡先生に教えていただきました。

高齢患者さんの透析導入が増えている
― 日本全体に高齢化が進んでいますが、透析患者さんではいかがでしょうか。
透析患者さんにも高齢の方が増えています。日本透析医学会による最新の統計調査によれば、透析患者さん全体の66%が65歳以上であり、その半数(33%)は75歳以上の方です。また、新たに透析導入される患者さんの41%が75歳以上の方であり、平均年齢も69歳(10年前は66歳)と上がっています。高齢化が進んだ理由は、単純に高齢人口が増加したからだけではなく、健診の普及で腎疾患の早期発見と早期治療が可能となり若年者の透析導入が減少したこと、また腎臓障害が軽度から中等度の時期に積極的に治療介入することで透析導入までの期間を延ばせるようになったこと、さらに透析医療の進歩により透析患者さんが長生きできるようになったことなどが考えられます。
― 高齢の透析患者さんに起こりやすい合併症や、健康問題は?
もともと複数の病気(例えば糖尿病、高血圧、がん、認知症など)をお持ちである方が多く、その病気に由来する合併症が非常に多彩であり、多くの診療科と連携した総合的な対応が必要になります。さらに、加齢そのものによって起こる生理的機能の低下が問題になるケースも多いです。例えば呼吸機能は若年者の半分以下となり、呼吸器の病気が特にない方でも肺活量は低下し、ちょっと動くだけでも息切れしやすくなります。感覚器も鈍くなり、心機能も低下し、意欲も減退します。その結果、動くのが億劫になり、家の中で過ごす時間が増えて筋力が低下しますので、サルコペニア(筋肉量減少)やフレイル(虚弱)という寝たきりのリスクが高い状態になりやすいです。
― 高齢の方の場合、透析導入時にはどのようなことに気をつければよいでしょうか。
透析医は、透析だけではなく個々の患者さんの多様な合併症の治療も行います。ですから、これまでのご病気(既往歴)と現在の生活状況を十分に聞かせていただくことがとても重要です。患者さんの精神的・肉体的状況から透析導入をスムーズに乗り越えられるかどうかをご家族とも相談した上で、腎代替療法の種類(血液透析、腹膜透析、腎移植など)を選んでいただきます。また、透析導入後の生活の質を維持するために、病気や治療に関して学んでもらう時間をなるべく長くとるようにしております。

通院を支える介護サービス
― 介護が必要な方が透析治療を受けることはできますか?
もちろん可能です。しかし、血液透析の場合、問題になるのは週3回の通院です。透析施設によっては送迎サービスがありますが、基本的には自力で乗り降りができる方が対象ですので、車椅子の方や移動が難しい方には介助が必要です。ご家族が介助できない場合や一人暮らしの方、老々介護の方は介護保険での通院介助サービスを利用し、ヘルパーに透析施設まで連れてきてもらう方法があります。車いすで乗り込める「介護タクシー」も利用できます。
透析施設に到着後、院内の介助はスタッフが行う場合もありますが、ヘルパーの付き添いをお願いする場合もあります。

病院の「地域包括ケア病棟(病床)」とは
― 透析治療を受けながら在宅で過ごされている方が、体調が悪化したときは?
在宅療養の患者さんが、体調をくずしたとき、一時的に入院できる場所として、病院の「地域包括ケア病棟(病床)」があります。その役割は在宅復帰支援であり、2か月間に限り利用できます。脳卒中や心臓疾患などで急性期病院での入院治療を受け、病状は安定したが在宅にすぐには戻れない場合に多く利用されていましたが、近年、在宅医療を支援する役割を強く期待されており、軽度の肺炎にかかったときや、足腰の筋力が低下して毎日集中的なリハビリを行うことが必要な場合にも入院することができます。
― 家族だけの介護だけでは不安なときに、入院できる場所があると安心ですね。
在宅療養はご家族の負担が少なくありませんので、地域包括ケア病棟を「レスパイト入院」として利用することもできます。「レスパイト」とは、一時休止、休息、息抜きという意味です。ご家族の病気や、旅行や冠婚葬祭などで介護ができないとき、あるいは介護に疲れて少し休みたいときにも、一時的に患者さんを移して入院していただくことができます。介護施設のショートステイにも同様の役割がありますが、医学的な管理の必要な透析患者さんの場合、介護施設での受け入れは難しいことが多いのです。
透析患者さんの在宅療養を無理なく継続するためにも、透析病院の地域包括ケア病棟(病床)を活用していただきたいのですが、現在のところまだまだ不足しています。今後の充実が望まれるところです。
― 最後に、通院ができない透析患者さんの療養について教えてください。
自宅でできる腹膜透析や在宅血液透析などの方法もありますが、いずれも自己管理が必要で、高齢の患者さんには難しいです。そこで、透析治療ができる施設に入院していただくのがよいでしょう。長期的に入院できる療養型病院(病院の「療養病床」)のほか、グループホームや介護付き有料老人ホームなどの介護施設にも、透析治療を受けられる施設があります。
患者さんへのメッセージ
人間、誰でも年をとるのは避けられません。それなのに「もう年だからあれもダメ、これもダメ」と言われてしまい、嫌な思いをされている高齢の患者さんが少なくないのではないでしょうか。療養に必要な支援を提供させていただき、高齢患者さんの生活を「あれもできる、これもできる」に変えたいというのが私たちの願いです。年をとっても地域の透析施設や介護サービスを活用しながら在宅療養を続けることができますので、安心して任せてください。

お話を伺った先生
横浜じんせい病院 院長
山口 聡 先生
[ 病院のご紹介 ]
病院名 | 医療法人社団 厚済会 横浜じんせい病院 |
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所在地 | 神奈川県横浜市港南区港南3-1-28 TEL.045-840-3770(代表) |
診療科目 | 人工透析内科・一般内科 |
Webサイト | http://www.yokohamajinsei.com/ |

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