透析医療の現場から 日本赤十字社 旭川赤十字病院

掲載:2019年 vol.37

お話を伺った先生

日本赤十字社 旭川赤十字病院

腎臓内科 部長

小林 広学 先生

1999年、札幌医科大学を卒業。専門分野は、透析患者さんに対する循環器合併症管理・治療、バスキュラーアクセス(シャント)不全に対するバルーン治療、腹膜透析管理など。北海道という地域性を考慮しながらも、患者さん一人ひとりに最適な透析治療選択の提案、その後のケアを行っている。

   

腎臓内科 副部長

松久 優雅 先生

2000年、札幌医科大学を卒業。専門分野は腎疾患・透析。きめ細やかなコミュニケーションを心がけ、患者さんやそのご家族の立場に立った診療を実践している。

   

腎臓内科 医師

西沢 慶太郎 先生

2010年、札幌医科大学を卒業。専門分野は腎疾患・透析・インターベンション(カテーテル治療)。1年前より当院で勤務。チーム医療の重要性を実感する日々を送っている。

地域性や患者さんの年齢などを考慮し、幅広い治療選択を提案。

 人工透析治療(透析)には、大きく分けて血液透析と腹膜透析の2種類があります。透析患者さんのほとんどが血液透析を選択している一方で、腹膜透析を受けている患者さんは全体の約3%です。

 腹膜透析とは、自身の腹膜を透析膜として用いる透析療法のことです。腹部にカテーテルを留置し、そこに透析液を注入します。一定の時間をおく間に、血液中の老廃物などが腹膜中の血管を通して透析液に染み出してくるので、これを排液します。こうして血液の浄化を行うのです。

 北海道の旭川赤十字病院では、透析導入を控えた患者さんに、血液透析・腹膜透析、また腎臓移植についても丁寧に説明を行います。その上で、患者さんの意思はもちろん年齢や住まいの地域、家族のサポートの有無などさまざまな条件を考慮して、患者さん自身に選択してもらうようにしています。

小林 広学先生

「血液透析の場合、通院後は医療者が治療をしてくれます。しかし、腹膜透析の場合、治療も含めて患者さんがきちんと自己管理しなくてはいけません。自分の体を知るという意味でも、腹膜透析は大変意義のある治療だと思います」と小林先生。

 腎臓内科部長の小林広学先生は、近年適していると思われる患者さんには腹膜透析を勧めることが増えていると言います。理由の一つは、地域性です。「当院は北海道のほぼ中央に位置し、道北・道東の基幹病院であることから広域の患者さんが来院します。最近この地域では人口減少が進み、それに伴い血液透析を行う施設も減少しています。自宅から週に3回以上通院できるところに透析施設がない場合、患者さんは治療のために引っ越しも検討しなければなりません。できるだけ生まれ育った地域で透析治療を受けてもらうことを考えた場合、腹膜透析であれば基本的に在宅で行う透析であり、月に1〜2回通院すれば良いため、患者さんの負担も軽くおすすめなのです」と小林先生。

 また、透析患者さんの高齢化も理由の一つです。以前は腹膜透析を導入後、血液透析に移行する患者さんも多くいらっしゃいました。しかし、透析導入時の平均年齢は少しずつ上がってきており、それに伴い食事量が減少し透析効率低下の懸念が少なくなりました。また、透析液や医療器具の品質も高くなってきています。高齢で導入された患者さんの場合、寿命をまっとうされるまで腹膜透析を続けられる方も多いと言います。

 こうして特に高齢の患者さんにメリットの多い腹膜透析ですが、注意点もあります。全国的に、高齢化と同時に一人暮らしの方が増えており、トラブルがあった際に状況の把握や速やかな対応が難しいことです。昨年頃からITによる遠隔治療で患者さんの状況を把握する取り組みが進んでおり、当院でも在宅での腹膜透析治療にこのようなIT技術を用いる方法を模索しています。

 また将来的に、認知症の可能性や身体機能の低下も考慮しておく必要があります。腹膜透析は、バッグの定期交換や感染症予防などしっかりと自己管理をできることが重要なポイントです。「ただ、自己管理が難しくなってきたという理由で血液透析に移行するのが良いわけではありません。ご家族や地域の訪問看護の協力を得られるのであれば、引き続き、腹膜透析を継続する方が良い患者さんもいらっしゃいます。ご自身の体の状態や環境に合わせて、最適な治療を選べるように、相談に乗っています」と小林先生は話します。

患者さん、医師、医療者同士の信頼関係が、より質の高い治療につながる。

 当院は、保存期の治療をはじめ腎生検、透析の導入、合併症を含む透析導入後のケアまで、腎臓病の幅広い診療を行っています。長期にわたる治療を必要とする患者さんも多い中で、特に大切にしているのが“信頼関係”です。患者さんの状況や希望をしっかりと聞き取り、何でも話しやすい関係づくりを目指しています。

 小林先生は「普段私たち医師は外来での診察や、透析治療の指示などはしますが、なかなか日常生活のことまでは患者さんとお話しできません。でも看護師や技師のみなさんがちょっとした時間に患者さんと話し、体調のことや何気ない身の回りのことを聞いて情報を共有してくれるので、治療にも役立てられます」と言います。

 また腎臓内科副部長の松久優雅先生も、「医師だけでは治療はできません。医療者全員の力があってはじめて、良い治療ができます。例えば栄養指導などは、管理栄養士が時間をかけて詳しく患者さんに説明してくれます。一方患者さんも、医師には言いにくいけれど看護師には話しやすいということもあるでしょう。医療者全員が、それぞれの立場で患者さんの悩みや迷い、希望をくみ取れればと思います。まさにチーム医療ですね」と話します。

 さらに患者さんとの関係づくりで松久先生が大切にしていることは、患者さんやそのご家族の気持ち・立場に気持ちを寄せることです。「診断や治療選択などの際、自分が患者さんやご家族の立場だったらどう感じるかを考えます。何を希望されているのか、選択した治療に納得できるのか、家族であれば患者さんに何をしてあげられるのか、そういうことを考えます」と松久先生。「良い治療の選択肢が多い今、絶対的な答えがあるわけではありません。ただ、自分自身が患者さんと同じ目線になった時に、したくない、されたくないことは私たちも避けるようにしています」。

 こうした姿勢を、若い医師や医療者も近くで学んでいます。同じく腎臓内科の西沢慶太郎先生は、「患者さん主体の治療の大切さを学んでいます。例えば水分調整について伝える時、私が医師の目線だけで説明していると“ペットボトル2本分と具体的に言う方が、患者さんにとってわかりやすい”と教えてくださいます」と話します。患者さんに寄り添う思いは、こうして次世代へと引き継がれ、技術とともにさらなる医療の向上へとつながっていきます。

西沢 慶太郎先生

西沢 慶太郎先生

近隣の医療施設と連携しながら、地域医療の充実をリード。
小林先生(左)と西沢先生(右)

腎臓病や透析についてはもちろん、最近は糖尿病による腎疾患についても講演されるという小林先生(左)と、「上司であり先輩である先生方や、スタッフからも学ぶことが多い」と話す西沢先生(右)。

 旭川赤十字病院は、総合病院であることから院内連携も盛んです。「合併症の治療など、必要があれば診療科を超えてすぐに連携できるのは当院の強みです」と小林先生。松久先生も「診療科間の風通しが大変良いので、他科の先生とも相談しやすいですし、協力もスムーズです」と話します。

 また院内だけでなく、基幹病院として近隣の医療施設との地域連携も進んでいます。当院では腎臓病の診療や透析導入の手術を行い、その後の血液透析治療は、患者さんのご自宅から近い病院やクリニックを紹介しています。反対に急性期の治療や手術、合併症の診療などは地域の医療施設からの紹介で当院が引き受けます。こうして同じ地域の医療施設がそれぞれの役割を担い、より良い透析治療を継続して提供していけるよう連携しているのです。

 今後の目標について、小林先生は「一人ひとりの患者さんに寄り添いながら、最適な治療、満足してもらえる治療を、これからも続けていきたいです。特にこの地域では、できるだけ住み慣れた土地や家で暮らし続けられるためのサポートも考えていきたいですね」。松久先生は「透析患者さんは、食事などの制限もありますが、あまり神経質にならずに旅行や趣味を楽しんでほしいと思っています。患者さんの人生がより豊かになるためのサポートを、しっかりしていきたいです」と語ってくれました。

明るい陽射しが差し込む、広々とした透析室。

明るい陽射しが差し込む、広々とした透析室。患者さん同士、楽しく会話を楽しむ光景も。

お問い合わせ
日本赤十字社
旭川赤十字病院

〒070-8530
北海道旭川市曙1条1丁目1番1号

TEL 0166-22-8111

https://www.asahikawa.jrc.or.jp/

【診療科】 糖尿病・内分泌内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、腎臓内科、小児科、外科、整形外科、形成外科、脳神経外科、心臓血管外科、呼吸器外科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、麻酔科、歯科口腔外科、脳神経内科、血液・腫瘍内科、皮膚科、救急科、放射線科、地域連携科、病理診断科、精神科(休診中)

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