
「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。
透析をめぐる「お金」と「制度」
小池内科 院長
小池 昭夫 先生
透析医療は高額な医療ですが、国や自治体によるさまざまな助成制度があります。透析医療の患者負担や助成を受けるのに必要な手続きについて、小池昭夫先生に教えていただきました。(2018年6月現在)

透析医療に対する助成制度の始まり
― 透析医療に関する制度はどのような変遷をたどってきたのでしょうか。
昭和42(1967)年にまず血液透析が保険適用となりました。当時は世帯主本人負担は0、家族は5割、のちに3割になりました。現在のような助成制度は何もなく、透析は患者さんにとって非常に負担が重い治療であり、経済的な苦しさから治療を断念する患者さんも少なくありませんでした。負担軽減を求める透析患者さんたちが各地で患者会を結成、昭和43(1968)年には人工透析研究会(現・日本透析医学会)が発足し、ともに国会や行政に陳情を行いました。その結果、昭和47(1972)年に透析医療が「更生医療」として認められました。「更生医療」とは身体障害者の治療費用を国が援助する制度で、現在は「自立支援医療」と呼ばれています。
― 助成制度のおかげで患者さんが透析治療を受けやすくなったのですね。
保険適用が始まった当時は全国でたった215人だった患者さんは年々増えました。昭和59(1984)年には腹膜透析も保険適用となり、現在は約33万人が治療を受けておられます※1。透析医療は高度な医療であり、患者さん一人あたりの医療費は年間約500万円かかります。これに感染症や心不全などの入院治療費を加えると、透析医療に対する国の負担は約2兆円に達しています。

透析患者さんが受けられる助成制度
― 透析患者は障害者認定が受けられるそうですが、認定について教えてください。
透析開始後3カ月時点で、腎機能障害者として障害者認定を受けられます。認定後は、障害基礎年金、障害厚生年金が支給されることになっています。申請には透析導入の原因疾患の初診日が必要です。別の医療機関で糖尿病と診断された方は、その医療機関に証明書の発行を依頼する必要があります。申請後、3カ月〜6カ月以内に認定が受けられます。
― 透析患者さんの通院時の自己負担はどのくらいなのでしょうか。
透析患者さんには「特定疾病療養費制度」という医療費助成制度があります。自己負担限度額は患者さんの収入により自己負担ゼロ、1カ月あたり1万円(高所得者は2万円)となり、1万円を超えた分は還付されます。ただ、「医療機関ごとに1万円まで」というルールがあり、旅行先など別の医療機関で透析を受けた場合は、その病院でも1万円までの負担は生じます。東京都には東京都内在住の人であれば自己負担額の1万円も助成する制度があり、通称「マル都」と呼ばれています。
なお、医療機関によっては送迎やテレビカード代、パジャマのレンタル料、シーツ交換料、食費などが有料となるケースもあり、これらは助成の対象にはなりません。
海外旅行先で透析を受けても、一部の還付は受けられる
― 海外旅行を楽しむ透析患者さんが増えています。海外の病院で受けた透析の費用はどうなりますか。
渡航先の医療機関の領収証があれば、それも帰国後に還付されます。出発前に、海外で治療を受ける旨を所属の健康保険組合や自治体などの保険者に伝え、「療養費払い」受給を申請する許可を得ておくとよいでしょう。ただ、還付されるのはあくまでも日本の医療に即した金額のみであり、現地でかかった医療費すべてが戻るわけではありません。実際に海外でかかった金額の10分の1しか還付されないこともあります。
― こうした制度を知らずに治療を受けている方も少なくないと聞きます。
多くの患者さんは助成制度があることを知りません。透析導入後10年経ってから気づいて申請したという患者さんもおられます。時間が経ってからの申請も可能ですが、受給には条件もあります。医療機関の医事課、医療相談室のスタッフや、自治体の窓口で尋ねてみてください。

患者さんへのメッセージ
「透析導入後は、もう何もできなくなる」と思っておられる患者さんが多いのですが、好きなことをやれるのだと思っていただきたいですね。旅行が好きなら、たとえば平日は3日間透析を受け、週末は旅行に出かけて温泉を楽しむのもよいと思います。適度になら現地のおいしいものやお酒を楽しむのもよいでしょう。それができたら、現地の医療機関で透析を受けながら数泊の旅行に挑戦することもできます。危険のない範囲でやりたいことをやって、やれるという自信をつけていくことが大切だと思います。当院にも旅行先で透析を受けながら、四国八十八カ所巡礼の旅や地中海クルーズを元気に楽しんだ方もいらっしゃいます。ぜひ、ご自分のやりたいことを主治医に話してみてください。
また、仕事をしている透析患者さんには、できるだけ仕事を続けることをお勧めします。「仕事をしながら透析を続けるのは疲れるし大変だから」と辞めてしまう方もいます。当院の患者さんには、透析をスケジュールに組み入れて、その他の時間で集中して仕事をしている患者さんや、夜間透析を基本にして会社の仲間には知られないまま、透析を続けている方もいます。どうすれば仕事と透析治療を両立できるか、医師もスタッフも一緒に考えていきますので、どうか前向きに考えてスタッフに相談していただきたいと思います。
※1 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現状2016年12月31日現在」

お話を伺った先生
小池内科 院長
小池 昭夫 先生
[ 病院のご紹介 ]
病院名 | 医療法人社団駿昭会 小池内科 |
---|---|
所在地 | 東京都千代田区富士見2-13-16 上田ビル TEL.03-3265-0203(代表) |
診療科目 | 内科・循環器科・人工透析 |
Webサイト | http://www.koike-cl.com/ |

小池内科 外観