Alt tag

「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。

透析患者さんの「かゆみ」のケア

大町土谷クリニック 院長
高橋 直子 先生

 日ごろ皮膚のかゆみが気になることはありませんか。「かゆみくらいで…」と医療スタッフに伝えるのを遠慮したり、かゆみは仕方ないとあきらめてがまんしたりしていませんか。透析患者さんのかゆみは、適切なケアで改善することができます。 透析患者さんのかゆみの治療に詳しい高橋直子先生にお話をうかがいました。

高橋 直子 先生

透析患者さんの多くが「かゆみ」に悩んでいる

― 透析患者さんには皮膚のかゆみが起こりやすいと聞きますが、実際はいかがでしょうか。

 透析患者さんには皮膚のかゆみを訴える方が多く「透析搔痒(そうよう)症」という名称があるほどです。昔は透析中に体をポリポリかいておられる患者さんがよくおられましたが、かゆみに対する治療が進歩したおかげで、現在はあまり見かけなくなりました。それでもいまだに60〜80%の患者さんにかゆみの症状があり、ご自宅でも持続的に悩まされています。若い方に比べると高齢の患者さんはかゆみが出やすく、かつ症状が強い傾向があります。

― かゆみが起こりやすい部位は?

 背中や頭、腹部、腰、脛などです。かゆみの起こる最も重要な原因は肌の乾燥で、乾燥は足のほうから徐々に体の上の方に向かって広がります。

― 季節による影響はありますか?

 空気の乾燥する冬はかゆみが強くなりやすいです。しかし夏でもエアコンによる空気の乾燥に加え、自分の汗で悪化することがあります。汗にはかゆみを引き起こす物質が含まれているからです。また、紫外線や虫刺されなどのトラブルがかゆみの引き金になることもあります。

高橋 直子 先生

なぜ、「かゆみ」が起こりやすいのか

― 透析患者さんの「かゆみ」の原因を教えてください。

 先ほども述べたように、最も重要な原因は肌の乾燥です。透析患者さんの9割が乾燥肌なのです。高齢の患者さんは加齢によって肌が乾燥しやすい上、透析治療による除水や日常生活での水分摂取制限により、皮膚の水分量はどうしても少なくなってしまいます。
 一方、透析治療自体が原因の場合もあります。透析が不十分でかゆみの原因となる尿毒素が十分に除去されていなかったり、ダイアライザ(透析膜)の成分や透析液の温度が影響していたり、合併症の治療薬が原因となっていたり、かゆみの原因はさまざまです。
 さらに、高カルシウムや高リン血症も影響します。血液中のカルシウムやリンの濃度が高いとカルシウムとリンが結合して「石灰化」が起こります。これが血管に沈着すれば動脈硬化や心筋梗塞の原因に、関節であれば関節炎に、そして皮膚ではかゆみの原因になります。
 あるいは、脊髄や脳の視床といった中枢神経に存在する体内物質のバランス異常が原因の場合もあります。
 透析患者さんのかゆみは、このように複数の原因が重なって生じることが多いので、治りにくいのです。また、かきむしった皮膚が傷ついて炎症や感染症を起こしたり、よりかゆみの強い湿疹へ変化したりすることもあり、「かけばかくほど、かゆくなる」という悪循環に陥りがちです。

高橋 直子 先生

「かゆみ」は透析の合併症

― かゆみは多くの人が悩んでいるにもかかわらず、患者さんの家族はもちろん、本人にすら軽視されがちです。

 かゆみは、痛みとは異なり軽視されやすいものです。そのため、患者さんは「どうせわかってもらえない」とあきらめてしまうのです。「かゆみ程度で家族や医療スタッフに迷惑をかけたくない」という遠慮から、がまんしておられる方も少なくありません。
 しかし、2006年に発表された大規模研究で、強いかゆみは睡眠の質を低下させる原因となり、精神的および身体的な生活の質の低下を招くことがあるばかりでなく、睡眠障害を介して死亡リスクの増加に関連することがわかりました*1。また、重度のかゆみがある患者さんは、中等度以下の患者さんに比べ、2年後の死亡率が1.6倍に上るというのです*2。このようなリスクが明らかになって以来、かゆみは透析の重要な合併症と認識されるようになりました。

高橋 直子 先生

かゆみ対策は「保湿」と「適切な透析」

― かゆみを改善するためのケアについて教えてください。

 病院でのかゆみ治療は原因別に行われ、スキンケアを基本に、症状に応じてステロイド外用剤などのお薬を使います。乾燥肌に対しては、毎日保湿剤を手のひらでやさしくぬり皮膚の乾燥を防ぎます。そして、スキンケアとともに、透析の方法や時間や頻度を見直してかゆみの原因となる尿毒素を十分に除去することが大切です。
 日常生活での注意としては、熱い湯は皮脂膜を奪ってしまうので、お風呂は40度以下のぬるめにし、長湯を避けるようにしたいものです。石鹸でゴシゴシ洗いすぎないことも大切です。
 一方、透析中にかゆみが起こる場合は、透析液の温度を下げるとかゆみがよくなることがあります。また、あまり知られていませんが、食品用の保冷剤など冷たいものを手に握るだけでも、一時的にかゆみを感じにくくなります。

高橋 直子 先生

患者さんへのメッセージ

 皮膚は外敵の侵入から体を守る、大切な臓器です。患者さん本人がかゆみを訴えなくても、衣服にひっかき傷でできた血液のシミや、着替えの際に乾燥した皮膚が白い粉となって落ちるなどは、「かゆみ」、「乾燥」のサインです。乾燥肌はいずれかゆみを生じますし、適切なケアでほとんどのかゆみは改善します。どうか「あきらめない、恥ずかしがらない、隠さない」で、かゆみのつらさがない生活を目指しましょう。

*1 Pisoni R. et al.: Nephrol Dial Transplant. 21(12): 3495-3505, 2006
*2 Narita I. et al.: Kidney Int. 69(9): 1626-1632, 2006

高橋 直子 先生

お話を伺った先生

大町土谷クリニック 院長
高橋 直子 先生

[ 病院のご紹介 ]
病院名 特定医療法人あかね会 大町土谷クリニック
所在地 広島県広島市安佐南区大町東2丁目8-35
TEL.082-877-5588(代表)
診療科目 内科、透析、産婦人科、放射線科
Webサイト http://www.tsuchiya-hp.jp/oomachi/
大町土谷クリニック