
「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。
透析患者さんの「心」の健康
日本赤十字社医療センター 腎臓内科
上條 由佳 先生
透析導入が決まると、ショックで精神的に落ち込んでしまうことも。病気に不安やストレスを感じるのはごく当たり前のことであり、心が弱いと恥ずかしく思う必要はありません。透析治療によって揺れる心とどう向き合えばいいのか、上條由佳先生に教えていただきました。充実した毎日のために、体だけでなく、心の健康にも目を向けてみてください。

透析患者さんの気持ちが落ち込みやすい時期とは
― 透析患者さんが精神的に落ち込みやすいのは、どのような時期でしょうか。
慢性腎不全の診断を受けたとき、30〜40%程度の方が心の健康状態がゆらいで「抑うつ状態」になります。「抑うつ状態」になると、今までできていたことができず、それまで好きだったことにも興味がもてなくなるなど、生活を楽しむことができなくなります。
その背景には、「なぜ自分が?」と病気を受け入れられない気持ちや、「どうすればいいのかわからない」という不安、さまざまな生活への制限が加わることへのストレスがあります。
心の落ち込みは、診断時の腎不全の病期(ステージ)が高いほど現れやすい傾向があります。また、高齢で診断された方より働き盛りの年代の方のほうが、「育児や仕事が続けられなくなるのではないか」といった将来への不安が大きいものです。
― 透析導入前後はどうでしょうか。
主治医から「透析を始めましょう」と告げられたときには、多くの方がこれからの生活に不安をもちます。仕事や趣味など、これまで生きがいとしてきたことが続けられなくなるのではないかと、自分自身の根源的な価値を見失ってしまうこともあります。
また、透析導入後は合併症が現われたときや、腹膜透析から血液透析への移行、腎臓移植から透析への移行など、治療法が変わるときに気持ちが揺れやすいものです。心と体の調子は関連していて、体調が安定していれば心も安定しますし、逆に心が安定していれば体調も安定すると言われています。
ただ、心の状態は変化していくもので、落ち込んだ状態がずっと続くわけではありません。一般に、腎不全のような根治の難しい慢性疾患にかかると、人の心は「落ち込む」「避ける」「闘う」「折り合う」「受け入れる」という5段階で気持ちが大きく変化していきます。しかし、中には抑うつ症状が重く、精神科医による治療、心理療法やカウンセリングが必要になる方もいらっしゃいます。ですから、「うつ」は透析治療に伴う重要な合併症のひとつと言えるのです。

心配なときは医療スタッフに相談を
― 透析患者さんが落ち込んでいるときに、家族はどのように接してあげるのがよいのでしょうか。
心の問題を抱えている患者さんには複雑な感情があり、自分を否定される言葉にはとても敏感になります。家族は最も患者さんに近いからこそ難しさもあるものです。患者さんのことを思うがあまりつい「体に悪いからあれもダメ、これもダメ」と制限することは、患者さんにとって大きなストレスになります。家族の中で居場所がなくなったような気持ちになったりして、家族に反発したり、一層ストレスが強くなることもあります。第三者である医療者が間に入ることでうまくいくことも多いので、アドバイスを求めていただくのがよいと思います。
― 心の問題については、誰に、どのように相談すればよいのでしょうか。
医療者の中で、患者さんの生活面や心の状態までよく理解しているのは看護師ですが、主治医や事務長など、どなたでも話しやすい人に相談してみてください。精神面の問題は相談しにくいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、「これまではできていた〇〇ができなくなっている」というように、患者さんやご家族が困っていることを率直に話していただけばよいと思います。透析治療は患者さんが充実した生活を送り、人生を前向きに楽しむための治療です。「うつ」であるかどうかはさておき、患者さんのQOL(生活の質)が低下していること自体が大きな問題ですので、遠慮なく相談してください。もし、患者さん本人の前では話しにくければ、ご家族だけで面談してもよいと思います。

自分に合った治療方法の選択が大切
― 自分に合った治療方法はどのように選んでいけばいいですか?
患者さん自らが病気を理解し、ご自身の治療に積極的に参加することはその後の生活の質に大きく関わります。治療の選択肢には「血液透析(HD)」「腹膜透析(PD)」「腎移植」があります。主治医の話を積極的に聞き、必要であればセカンドオピニオンを受けるなどして、自分の生活や価値観に合った治療を選びましょう。信頼性の高いインターネット情報を活用するなど、患者さん自身が情報を集めることも役立ちます。
このように、患者さんと医療者が協働して治療方法の決定を下すプロセスは「シェアード ディシジョン メイキング」(Shared Decision Making ;SDM)と呼ばれ、満足度の高い医療のための大切な考え方とされています。
患者さんへのメッセージ
自分のおかれた状況に応じて、気持ちが変化していくのは、ごく当たり前のことですので、落ち込んでいるのは自分だけではないと考えてください。また、心に問題があるときは現在のこと、これからのことを考えすぎると余計落ち込んでしまいます。これまで自分がしてきたこと、大事にしてきたことを振り返って、心を休憩させてあげてください。透析患者さんの新たな人生を支えていくのも私たち医療者の役割です。医療スタッフに気持ちをぶつけてもかまいませんので、落ち込む気持ちを一人で抱え込まないようにしてください。

お話を伺った先生
日本赤十字社医療センター 腎臓内科
上條 由佳 先生
[ 病院のご紹介 ]
病院名 | 日本赤十字社医療センター |
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所在地 | 東京都渋谷区広尾4-1-22 TEL.03-3400-1311(代表) |
診療科目 | 内科、血液内科、アレルギー・リウマチ科、緩和ケア科、メンタルヘルス科、消化器内科、糖尿病内分泌科、感染症科、腎臓内科、神経内科、呼吸器内科、循環器科、呼吸器外科、胃・食道外科、大腸・肛門外科、脊椎整形外科、脳神経外科、乳腺外科、肝胆膵・移植外科、骨・関節整形外科、心臓血管外科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、産科、婦人科、新生児科、小児科、小児保健、小児外科、化学療法科、麻酔科、集中治療科、内視鏡診断治療科、リハビリテーション科、放射線科、救急科、歯科・口腔外科、健康管理課 |
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