知っておきたい「シャント」のこと

「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。

知っておきたい「シャント」のこと

東海病院 院長
江本 秀斗 先生

 血液透析の開始にあたって、主治医の先生からまず説明されるのが「シャント」です。「シャント」とは聞きなれない言葉ですが、何なのでしょうか。透析治療にとって大切なシャントについて、江本秀斗先生に教えていただきました。

江本 秀斗 先生

「シャント」とは何か

― 血液透析にはまずシャント造設からといわれます。シャントとは何なのですか。

 シャントとはもともと「導線でつないで作った回路」を意味する言葉で、「透析用動静脈瘻」「バスキュラーアクセス」とも呼ばれます。
 血液透析は、腎臓の代わりにダイアライザーという機器を用いて血液の浄化を行う治療です。一般的に週に3回受けていただくので、2日分の血液浄化を4〜5時間ですることになります。そのためには、1分間に200〜250㏄の血液をダイアライザーに送る必要がありますが、これは通常の静脈の血流量よりはかなり多いのです。そこで、手首の表面に近いところにある静脈を動脈とつないで血流を増やすことを「シャント」といいます。シャントで十分な量の血液をダイアライザーに送ることで、十分な透析治療ができるのです。

― 通常の「自己血管シャント」のほかに、「人工血管シャント」というものがあると聞きました。

 はい。静脈の血管が細い患者さんの場合は、人工的に作られた血管を皮下に埋め込んで静脈と動脈をつなぎ、直接人工血管に針を刺して透析を行います。当院で人工血管シャントを使っておられる方は患者さん全体の5〜10%程度とみられています。

江本 秀斗 先生

シャント造設手術を受けるタイミング

― シャントを作るときには、入院しなくてはなりませんか?

 いいえ、多くの患者さんが日帰りでシャント造設手術を受けられています。手術は簡単なもので、通常は局所麻酔で行われますし、所要時間も30分ほどですみます。術後2時間程度は院内で過ごしていただきますが、その後は自宅に帰れます。痛みも、痛みどめの飲み薬で抑えられる程度ですから、心配いりません。ただ、人工血管シャントの造設には、1泊入院くらいの時間が必要な場合もあります。

― 手術を受けた日、入浴はできますか?

 傷口の部分をぬらさなければ問題ありません。湯船に入る場合は腕を上げておいてください。入浴で全身の血行がよくなることは、シャント内の血流もよくなるのでむしろ好ましいことと言えるでしょう。

― シャント造設手術を受けるタイミングは?

 シャントを造設しても、ただちに十分な量の血液が流れ込むわけではありません。通常使用可能になるまで、1〜2週間必要です。特に高齢では3〜4週間かかる場合もあります。腎機能の低下が進みそろそろ血液透析を検討する段階になったら、予めシャントを作っておけば、入院を必要とせずに透析導入がスムーズに行えます。

江本 秀斗 先生

シャントのトラブルを防ぐには

― 日常生活ではどのような点に気をつければよいでしょうか。

 腕を積極的に動かして血流をよくし、筋肉をつけることは腕のむくみを予防することにもなり大変よいことです。
 ぜひ気をつけていただきたいのは、シャント部分をぶつけないようにすることです。シャントには動脈と同じくらいの量の血液が流れていますので、思わぬ大けがにつながることがあります。万一けがをして出血してしまったら、腕をぎゅっとしばって止血し、ただちに病院に行くようにしてください。
 一方、シャント内に血栓ができて、血管が狭くなったり(狭窄)、閉塞したりすることもあります。自覚症状はないのですが、市販の聴診器を使って自分でシャントの音を聞くことでセルフチェックできます。「ザーザー」という音がしていればシャントは正常です。もし、狭窄や閉塞が起こっていても、カテーテルを使って血栓を除去したり血管を拡げる治療で改善します。

― シャントの閉塞を予防するにはどうすれば良いでしょうか。

 シャントのある方の腕に重いバッグなどの荷物をかけたり、腕枕をしたりして、腕を圧迫することは避けるようにしてください。腕時計も反対の腕につけるとよいと思います。また、シャント閉塞は血圧が低下すると起こりやすくなります。起床時にはゆっくりと身を起こして立ち上がるようにし、立ちくらみを起こさないよう留意することがシャントのためにも良いですね。
 さらに、透析を受ける前にはよく手洗いを行うようにしましょう。シャントから細菌が入り、感染を起こすことがあるからです。針を刺したところが赤く腫れ、強く痛む場合は、透析日以外でも受診してください。
 なお、人工血管シャントではこのようなトラブルが比較的起こりやすいものです。特に上記の点には気をつけて、安全にシャントを使っていただきたいと思います。

患者さんへのメッセージ

 いまや30万人以上の患者さんが透析治療を受けておられます。食生活でのたんぱく制限や、血液透析の場合週3回の通院治療という制約以外は、国内旅行は勿論のこと、海外旅行も可能で、健康な方と同じように生活できます。透析導入が決まっても、ぜひこれからのことを前向きに考えていただきたいと思います。

※1.高橋淳子ほか 透析会誌(43)2:171~176,2010

江本 秀斗 先生

お話を伺った先生

東海病院 院長
江本 秀斗 先生

[ 病院のご紹介 ]
病院名医療法人社団 秀佑会 東海病院
所在地東京都練馬区中村北2-10-11
TEL.03-3999-1131(代表)
診療科目東海病院本院、腎クリニック高野台(分院)
Webサイトhttp://www.tokai-hospital.com/
東海病院 外観

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