Alt tag

「透析とは何?」「どんな治療をするの?」「普段注意が必要なことは?」。
透析患者さんやこれから透析を始める方は、さまざまな疑問や不安を感じることがあるでしょう。
そこでより良い透析生活を支えるために、治療や気を付けたい症状、食事、運動など、透析に関する知識をドクターに学びます。

透析でいきいき長生き

聖隷佐倉市民病院 腎臓内科 透析センター部長
藤井 隆之 先生

 日本で透析治療への保険適用が始まってから約50年。医療技術の進歩や医薬品の登場によって、透析患者さんはより長い間、元気に生活できる時代になりました。透析の進化により患者さんの生活はどう変わったのか、藤井隆之先生に伺いました。

藤井 隆之 先生

海外旅行を楽しむ元気な患者さんも

― 長期にわたって透析治療を続けている方が増えています。

 はい。透析歴の長い患者さんは年々増えています。日本透析医学会の統計によれば、現在、日本全国で32万人が透析治療を受けておられますが、その約3割は透析歴10年以上です。1992年時点では1%未満に過ぎなかった20年以上の患者さんが約1割(8.3%)にまで増えています(日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況2016年12月31日現在」より)。さらに、現在は30年以上続けておられる患者さんも約7000名いらっしゃいます。この20数年の間にも、患者さんの透析歴は長くなってきていると言えます。

― 長生きだけでなくQOL(生活の質)が改善し、元気に過ごしていらっしゃる患者さんが増えているそうですね。

 はい。たとえば当院の患者さんは旅行会をつくり、国内旅行に行かれたり、個人で海外旅行を楽しんでいる方もおられます。テニスやゴルフ等を楽しむ方もおられます。

透析医療の技術が進歩

― 透析患者さんが長い期間、元気に過ごせるようになった背景は?

 第一に透析医療技術の進歩が挙げられます。30〜40年前と現在とでは、透析技術は大きく変わっています。血液をろ過する透析装置(ダイアライザー)に使われる人工膜の素材が進化し、体の中の毒素やごみを除去する能力が上がり、血液浄化が非常に効率的にできるようになりました。従来「透析の限界」と言われていたさまざまな問題も、透析技術の進歩によって少しずつ改善しています。近年登場した「オンラインHDF(血液透析ろ過)」はかゆみをひきおこす分子も取り除くことができ、患者さんの悩みの軽減に役立っています。
 約30年前は、ダイアライザーの性能も低く、透析患者さんの貧血に対するよい治療薬もありませんでした。ですから当時は輸血を行うことが多く、輸血の作用で顔色が黒ずんでいる患者さんがたくさんおられました。また、骨が変形した患者さんもたくさんおられたものです。透析患者さんの血中リン濃度が上昇すると血液中のカルシウムが減少し、副甲状腺ホルモン(PTH)の働きで骨からカルシウムが溶けだします。その結果、骨密度が低下して骨が変形するのです。しかし現在はよい治療薬ができ、こうした患者さんの姿はあまり見られなくなりました。健康な時と同じ状態とまではいきませんが、透析を受けながらも、その方なり、その年代なりのQOLが向上し、元気に過ごしておられる患者さんが増えているという印象です。

藤井 隆之 先生

元気に過ごすためのポイント

― 透析患者さんの生活指導の考え方も変わってきたそうですね。

 昔は「透析患者さんの生命を少しでも長く保つために、いかにして検査データを良くするか」という事に主眼がおかれ、患者さんは多くの制約の中で生活していました。しかし、近年は患者さんの生活の質が重視されるようになりました。「あれはダメ、これもダメ」ではなく「よく食べよく寝て、透析を十分に行って体調の良い状態を維持する」という考え方に変わってきたのです。

― 透析患者さんに「よく食べ」は少し意外な気がします。

 もちろん食べすぎてはいけません。しかし高齢の患者さんの場合、たんぱく質の摂取が少なすぎると筋肉量が維持できなくなります。筋肉の減少は「サルコペニア」と呼ばれ、病気に対する耐久力の低下や寝たきりの原因のひとつです。決められた範囲の中でたんぱく質を摂り、筋肉量を落とさないことが大切です。一方で若い透析患者さんは、ファーストフードなど無機リンを多く含むたんぱく質を摂りすぎる傾向があるので、注意していただきたいですね。

多職種チームで患者さんを支える医療

― 透析を受けると医師をはじめ医療スタッフとも長いおつき合いになります。

 透析導入前も含めると30〜40年もの長いおつき合いをさせていただく患者さんも少なくありません。さらに透析導入後は週3回、4時間を一緒に過ごします。透析中のおしゃべりから普段の生活の様子を伺うこともできますし、体調に変化があった時にも私たちがいち早く発見することができます。透析治療には患者さんとご家族、医療スタッフとの連携が欠かせません。さまざまな職種のスタッフがチームとしてかかわり、患者さんに合ったアドバイスをしています。

透析室の様子

透析室の様子

患者さんへのメッセージ

 「透析を始めたらもう、何もできなくなるのではないか」とおっしゃる患者さんがいらっしゃいますが、それは誤解です。
 透析治療は、いわば週に3回、腎臓からおしっこを出すようなものです。あくまでも腎不全の患者さんが生きるための “手段”に過ぎません。透析自体を目的と思わず、ご自分の目標や夢を追っていただきたいと思います。私たち医療スタッフも患者さんとの絆を大切に、トータルに患者さんの人生をサポートしていきたいと思います。

藤井 隆之 先生

お話を伺った先生

聖隷佐倉市民病院 腎臓内科 透析センター部長
藤井 隆之 先生

[ 病院のご紹介 ]
病院名 社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷佐倉市民病院
所在地 千葉県佐倉市江原台2-36-2
TEL.043-486-1151(代表)
診療科目 総合内科、腎臓内科、透析センター、消化器内科、内分泌代謝科、循環器科、神経内科、呼吸器内科、メンタルヘルス科、和漢診療科、リウマチ膠原病外来、小児科、外科、内視鏡センター、ストーマ外来、乳腺外科、血管外科、呼吸器外科、整形外科、側彎症外来、せぼねセンター(脊椎脊髄外来)、関節センター、形成外科、リハビリテーション科、脳神経外科、泌尿器科、眼科、皮膚科、耳鼻咽喉科、放射線治療科、放射線科、病理科
Webサイト http://www.seirei.or.jp/sakura/
聖隷佐倉市民病院 外観

聖隷佐倉市民病院 外観