
総合高津中央病院 透析センターの医療スタッフのみなさん。
掲載:2018年 vol.34

お話を伺った方
医療法人社団亮正会 総合高津中央病院
腎臓内科部長
向井 一光 先生(左)
副師長
後藤奈緒子 さん(右)
総合高津中央病院は、1956(昭和31)年創設(当時:高津外科医院)。人工透析センターでは、人工透析導入から検査、入院はもちろん、他の診療科との連携で総合病院ならではのトータルケアを目指している。特に心臓血管センターと密に連携し、合併症の治療に注力。夜間透析や、旅行透析の案内など、患者さんのライフスタイルに合わせたサポートが充実している。
チェックリストを用いて、患者さんの栄養状態を確認。
透析患者さんは、毎日の食事の中でリンやカリウム、塩分など摂取量に配慮が必要な栄養素があります。しかし一方で、最近は高齢の患者さんを中心に低栄養が深刻な問題になっています。透析や薬剤の進歩にともない、食事に対する考え方が以前より大きく変化している中、栄養に関する評価や指導において新たな取り組みを始めているのが、神奈川県川崎市の総合高津中央病院です。
「透析患者さんの栄養状態を改善するため、簡易栄養状態評価表(MNA®)※1 を取り入れています。これは、“食事量”や“体重の減少” など6つの大項目と12の詳細項目の質問に答えていただき、BMI※2 といった情報を加えて点数化すると、その方の大まかな栄養状態がわかるチェックリストです」と、腎臓内科部長の向井一光先生は話します。簡単な質問に答えるだけで、「栄養状態良好」「低栄養のおそれあり」「低栄養」のいずれかの結果に当てはまるような設定になっています。「質問項目自体が大変洗練されていて、採血のデータと比べてみても評価はほとんど変わらないんですよ」と話すのは、副師長の後藤奈緒子さん。今回の栄養評価を当院の透析治療にいち早く取り入れ、中心となって取り組んでいます。

明るく清潔で、広々とした透析室。

「医療者はみんな、患者さんに少しでも元気になってほしい。そのために何ができるか、いつも最善の方法を考えています」と向井先生。
栄養指導に力を入れるようになったのは、高齢の透析患者さんが増えてきたことにより、サルコペニア(筋肉量が減少して筋力や身体機能が低下する状態)やフレイル(加齢による運動機能や認知機能の低下)の問題があらわれてきたのがきっかけでした。「20年以上前の透析治療は、リンやカリウムなどの数値が上がらないよう、とにかく食事を制限することが良いとされてきました。しかし、必要なカロリーや他の栄養も摂れないため、年齢とともに体力がどんどん落ちていきます。今は透析方法やお薬も良くなっていますから、しっかり食べてしっかり透析をし、数値が心配な時はお薬でケアをするという方法をおすすめしています」と向井先生。オンラインHDFなどと栄養管理を組み合わせて、患者さんの体力をできるだけ長期的に維持させる治療を選択しおすすめしています。
※1 主に65歳以上の高齢の方を対象に、栄養状態を評価するための簡単なスクリーニング(選別)方法。
※2 体重と身長のバランスから、肥満度を判定する国際的な基準。
患者さんとの親密なコミュニケーションが、「食べられない原因」解消のきっかけに。
食事に関する考え方の変化に対し、当初は患者さんだけでなく医療者にも戸惑いがあったといいます。それまでの「制限」から「食べても良い」へ、いわばまったく反対の指導へ切り替わることになるからです。後藤さんは「食べても良いと言ってももちろん無制限ではありませんが、もう少し食べてみようとお話ししても患者さんは数値の悪化が怖くて食べられないんですね。長年透析をされている方ほど、食事制限の習慣が身に付いているので、その傾向が強いです。でも、いつまでもご自分で歩いたり好きなことができるよう体力を維持していただきたいので、先生やスタッフ全員がそれぞれの視点で患者さんと丁寧に会話を重ねてサポートするようにしています」と語ります。
このような、患者さんとの親密なコミュニケーションも当院が特に重視していることの一つです。「食べない・食べられないことの理由は、患者さんの数だけあるんです。加齢により食が細くなっている方、ご自宅が遠方で透析の時間や回数を減らしたいためご自身で強めの制限をしている方、ご家族の急な不在など本当にさまざまです。特に慢性的な栄養不足を防ぐため、なぜ食べない・食べられないのかを患者さんとの会話の中から見つけるようにしています」と向井先生。その理由を探り、原因を見つけて解消することこそが、患者さんの栄養障害を改善する一番のキーポイントであり、大切な“ラスト1マイル”であると考えています。

スタッフのみなさんへの信頼を語る後藤さん。「患者さんの状況に合わせて“こうしてみたらもっと良くなるのでは”とアイデアを出してくれます」。
そこで大きな役割を担っているのが看護師の方をはじめとするスタッフのみなさんです。穿刺のタイミングや透析中など、何気ない会話からわかる患者さんの日常生活の様子や悩みなどの中に、食べられない原因がかくれている場合があります。その原因を見つけられれば対処法がわかるため、患者さんの声によく耳を傾けるように心がけているといいます。「検査データで気になるところがあれば質問しますし、その他にも釣りや旅行など日常の会話もします。患者さんは週に3日来院されて、ご家族より長く一緒にいることも多いですから、安心して気持ちよく過ごしていただきたいですね」と後藤さん。

「後藤さんはサービス精神のかたまり!」と大絶賛の向井先生。お二人のこの笑顔が、スタッフのみなさんや患者さんにも広がる。
どうしても食べられない患者さんへの指導では、栄養補助食品をすすめています。商品の栄養価をチェックし、スタッフの方も実際に飲んでみるそうです。患者さんに長く継続してもらうには「おいしさと価格」が大切。おいしく感じられなかったり、1食分が高価な商品は、どうしても続けられません。患者さんの感想を積極的に取り入れ、自らも試しながら良い商品選びに反映しています。
こうした指導の結果、以前よりも少しずつ食べられるようになり、食べる喜びが増したという患者さんの声も聞かれるようになってきたそうです。「好きなものが食べられたり、栄養をしっかり摂って元気になるのはもちろん、心の支えも大きいと思います。患者さんと医療者の良い関係を築くことが、良い治療、ひいては患者さんの健康につながっていくと感じています」と向井先生も今の状況を喜びます。これまでの取り組みを活かし、今後は後藤さんが講演を行う予定もあります。「全国には栄養指導にもっと力を注いでいきたいと考えておられる医療者の方が、まだまだたくさんいらっしゃると思います。そういう方々に私の経験をお伝えして、情報や意見の交換もしていけたら良いなと思います」。
循環器内科や形成外科など他科との連携で、合併症の悩みまでトータルにサポート。
また総合高津中央病院では、総合病院ならではの連携を活かし、院内の他の診療科とも一緒に透析患者さんの長期的な治療を支えています。循環器内科や形成外科、また外来ではフットケア外来・末梢血管外来の先生方とも密に連絡を取り合って、合併症などへの最適な治療へつなげています。透析治療だけでなく、こうしたトータルの診療と温かいコミュニケーションが、患者さんの健康はもちろんご家族の安心をも支えています。
向井先生は「透析生活の中でも、透析に重点を置くのではなく、好きなことをして生活していただきたいです。年齢とともに介護も視野に入ってきますが、軽い運動もおすすめしながら、できるだけ長くご自分で活動できるお手伝いをしていきたいです」。後藤さんも「元気の基礎となる栄養面のケアに今後も引き続き力を入れて、さらに多くの方にその重要性を知っていただけるよう取り組んでいきたいです」と抱負を語ってくださいました。

患者さんにフットケアを行う看護師の藤井さつえ師長。

重症下肢虚血、難治性創傷に対する治療を行なっている形成外科の松崎恭一先生。

合併症の治療・予後改善に注力される循環器内科の宮本明先生。

心臓血管センターの医療チームのみなさん。
お問い合わせ
医療法人社団亮正会
総合高津中央病院

【診療科】内科、循環器内科・心臓血管センター、小児科、外科、整形外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、麻酔科、リハビリテーション科、放射線科、形成外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、人工透析センター、健康管理センター