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粘膜にできる消化器がんとは異なり、粘膜より下層の筋肉層にできる腫瘍

GIST治療は、約10年前まで手術以外の効果的な治療法が無い状態が続いていました。しかし近年、「分子標的治療薬」というGIST治療の選択肢が増えたことで、手術による治療が不可能な場合にも、生存期間の延長が期待されるようになってきています。
今回は、GISTとはどんな病気なのか、どのように診断・治療を行うのか、また、治療をより効果的に行うために、医師や患者さんが気をつけるべきことなどについて、澤木明先生に伺いました。

 

【監 修】藤田保健衛生大学病院
臨床腫瘍科 准教授
澤木 明先生
※所属は監修時

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さわき・あきら先生
1991年3月鳥取大学医学部卒業、同年名古屋市立大学附属病院勤務。守山市民病院内科、明陽会成田記念病院消化器内科、名古屋市立城北病院内科、愛知県がんセンター中央病院消化器内科部などでの勤務を経て2011年4月名古屋第二赤十字病院薬物療法内科副部長/第一消化器内科副部長に就任、現在に至る。日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本臨床腫瘍学会などの評議員を務める。

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――本日はありがとうございます。今回はGIST(ジスト)についてお話を伺いたいと思います。GISTというのは聞き慣れない病気ですが、どのようなものなのですか?

澤木 GISTは、Gastrointestinal Stromal Tumor(消化管間質腫瘍)の略で、消化管の壁の中にできる、悪性腫瘍の一種です。胃の壁の中にできることが最も多いといわれていますが、食道、胃、大腸など、消化管の壁の中であればどこにでもできる可能性があります。
GISTという名前が聞き慣れないのは、他の一般的ながんと比べると、発生頻度が低い種類のがんであるからかもしれません。胃がんや大腸がんは10万人に100~200人がかかるのに対して、治療が必要となるGIST患者さんは、10万人に1~2人の割合といわれています。

――胃や大腸にできる…ということは、胃がんや大腸がんの一種ではないのですか?

澤木 普段よく耳にする大腸がん、胃がんなどの消化器がんの多くは、食べ物が通る「粘膜」にできるのに対して、GISTはもっと下の層である「筋肉層」にできます。筋肉層にできるがんは、粘膜にできるものとは性質が違い、治療方法も異なります。そのため、消化器がんとは区別して「GIST」と呼んでいるのです。
消化管の筋肉層には、消化管を動かして食べ物の消化を促す「ぜん動運動」をコントロールする特殊な細胞(カハール介在細胞)があります。GISTでは、本来、カハール介在細胞になるはずの細胞が、正しく成長せずに、異常に増えてしてしまっているのです。

図1. GISTと消化器がんとの違い

――なぜ細胞が異常に増えてしまうのでしょうか?

澤木 主な原因としては、カハール介在細胞にあり細胞の増殖に関係している「KIT(キット)」とよばれるタンパクの異常であることが分かっています。正常な細胞のKITタンパクは、細胞を増やす指令を受けた時にだけ、細胞を増やす信号を出します。しかし異常なGISTの細胞では、異常なKITタンパクが、指令がない時でも、常に増殖信号を出してしまうため、必要以上に細胞がどんどん増え続けてしまうのです。

図2. GISTの原因となるKITタンパク