患者さんモデルで考える、進行した前立腺がんとの共生
去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の治療は、がんの状態や生活様式あるいは患者さんの価値観などを共有した上で選択されます。ただし、患者さんの全身状態(併存疾患の有無など)によって選択できる治療が異なることもあります。CRPCに進行した場合、今後のご自身の治療がどのように進む可能性があるのか、また、主治医との対話や治療決定にあたってどのようなことがポイントになるのかをイメージしていただく一助となるよう、仮想の患者さんによるモデルケースを3つご紹介します。
こちらに示すケースは、仮想患者さんによるモデルケースです。実際の病状や経過、治療法の選択などは、患者さんによって一人ひとり異なります。
ご自身の経過や治療法の選択については、主治医の先生とよくご相談ください。
CRPCに対する治療の種類
ホルモン療法
男性ホルモンの分泌や働きを妨げることで、がん細胞の増殖を抑える治療の総称です。転移のない場合にのみ使用可能な薬もあります。
化学療法
いわゆる「抗がん剤」のことで、がん細胞を攻撃して腫瘍を小さくします。別の化学療法が終わった後にのみ使用可能な薬もあります。
RI内用療法
骨転移巣に集積しやすい性質を持つ放射性医薬品を注射します。転移が骨に留まっている場合に選択肢となります。
分子標的療法
がんの増殖に関係する特定のタンパク質の働きを調節するように設計された薬です。事前の検査で治療が可能かどうかを確認した上で使われます。
治療法の選択にあたり考慮すべきこと
- 転移があるか?
- これまでにどのような治療を行ってきたか?
- 副作用はどのようなものがあるか?
- 併存疾患に影響があるのか?
- 通院治療が可能か?(通院頻度や回数、手段など)
- 費用はどのくらいか?
Aさん(65歳 地方都市在住)
手術後の再発に対する放射線療法とホルモン療法を経てCRPCへ進展し、治療を検討中です。
遠隔転移は認めていません。
治療に対する希望:少しでも良い治療をしたいが日常生活への影響はできるだけ避けたいと考えている
現在の状況
- 会社員として定年退職を控えており業務引継ぎもあるので長期入院はしたくない
- 退職後も人脈や資格を活かして活動的に過ごしたい
- 退職後は妻とたくさん旅行をしたい
- 妻や息子も転移を心配して情報収集をしてくれている
- 自身の病状や治療について詳しく知っておきたい
家族:妻、次男(大学生)、長男(社会人で東京在住)
Bさん(76歳 首都圏在住)
転移がんと診断され、ホルモン療法と放射線療法を経てCRPCへ進展し、治療を検討中です。
治療に対する希望:できる治療はいろいろと試してみたいと考えている
現在の状況
- カラオケが趣味だったが、新型コロナウイルスがこわくて仲間と集まれない
- 孫の成長が見たいので長く生きたい
- 妻が食事の献立を気にしたりウォーキングに連れ出すなど、献身的にサポートしてくれている
- 治療方針などは主治医にお任せしたいが、妻は治療について詳しく知っておきたいと思っている
家族:妻、猫、長女(家庭をもち近県に在住)
Cさん(82歳 地方在住)
監視療法とホルモン療法を経てCRPCへ進展し、治療を検討中です。
遠隔転移は認めていません。
治療に対する希望:高血圧や狭心症も患っており、のんびり治療できれば良いと考えている
現在の状況
- 家庭菜園や地域の見守り活動、自治体活動が日課で、活力は保ちたい
- 平日は孫たちを預かることが多く、犬の散歩も欠かせない
- 大きな病院は遠く、最近は長距離の車の運転は長男に頼むことがある
- 治療の難しいことは考えず、長くつきあってこいうと思っている
家族:妻、犬、長男(家庭をもち近所に在住)、長女(社会人で同県の都市部に在住)
- *1
- CAB:ホルモン療法の一種で、複合アンドロゲン遮断療法の略です。下記のADT*2と抗アンドロゲン剤によって男性ホルモンの作用を阻害する薬剤を組み合わせる治療を行います。
- *2
- ADT:アンドロゲン除去療法の略です。薬剤や手術によって男性ホルモンの分泌を妨げる(去勢状態とする)ことで前立腺がんの進行を抑えます。
患者さんモデルで考える、進行した前立腺がんとの共生
監修:鈴木 和浩 先生
群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学 教授