病態治療の解説

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)とは何ですか?

前立腺がんの成長には男性ホルモン(アンドロゲン)を必要とするため、治療により男性ホルモンの分泌や働きを抑えることでがん細胞の増殖を抑えることができます。この治療法はホルモン療法(内分泌療法)と呼ばれ、進行した前立腺がんの治療に対する重要な柱となります。
しかし、ホルモン療法も万能ではありません。ホルモン療法を続けていくと、治療効果が徐々に薄れ男性ホルモンが体内にほとんど存在しない状態(去勢状態)であるにもかかわらず、がん細胞が再び増殖(再燃)するようになります。こうした状態を「去勢抵抗性前立腺がん」または「CRPC**」といいます。

* 去勢状態とは、血清テストステロン(男性ホルモンの一つ)値が50ng/dL(0.5ng/mL)未満の状態をいいます。
** 専門的には「外科的去勢、薬物による去勢状態で、かつ血清テストステロンが50ng/dL未満であるにもかかわらず病勢の増悪、PSAの上昇をみた場合、抗アンドロゲン剤の投与の有無にかかわらず、CRPCとする」と定義されています。「CRPC」は「去勢抵抗性前立腺がん」の英語Castration-Resistant Prostate Cancerの略語です。

どうしてCRPCになるのでしょうか?

正確なメカニズムは、まだはっきりとはわかってはいません。しかし近年の研究***から、前立腺がんのがん細胞には、ホルモン療法が効きやすいタイプだけでなくホルモン療法が効きにくいタイプのがん細胞が入り込んでおり、こうした性質の違いが関係していることがわかってきました。 ホルモン療法を開始した当初は、ホルモン療法が効きやすいがん細胞が死滅します。しかし、ホルモン療法が効きにくいがん細胞は、治療を続けるうちにその性質を徐々に変化させて、去勢状態でも生き延びる力を獲得していくようになります。その結果、CRPCになると考えられています。ホルモン療法開始からCRPCになるまでの期間は、個人差はありますが2~10年程度と言われています。

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)になるまでの経過

*** Y. Zong, A.S. Goldstein Nat Rev Urol, 10 (2013), pp. 90-98

CRPCが疑われる場合とは?

一般的には、PSA値の推移から医師が判定します。目安としては、ホルモン療法により低下していたPSA値がある時期を境に急上昇した場合や、一定水準を超える高値が継続した場合などが挙げられます。ただし、PSA値と病勢が一致しないこともあるため、CTや骨シンチグラムなどの画像検査と合わせて判定されることもあります。必要な検査は患者さんごとに異なりますので、詳しいことは主治医に確認されると良いでしょう。

CRPCの治療法

CRPC治療の中心は「薬物療法」です。多くの場合は、従来のホルモン療法に加えて新しい治療薬の上乗せが検討されます。近年ではお薬の種類も増えているため、患者さんの病状や副作用の程度、患者さんの希望する生活スタイルなど様々な要素を加味した上で治療方法が選択されます。代表的なお薬の種類をご紹介します。

新規ホルモン療法(内分泌療法)
いくつか種類があり、転移の有無などを元に使い分けられます。
投与法:内服

抗がん剤(化学療法)
患者さんの全身状態などを考慮した上で選択されます。
投与法:点滴

RI内用療法
対象となる患者さんは、骨に転移がある方です。
投与法:点滴

分子標的療法
事前の検査で治療が可能かどうかを確認した上で使用されます。
投与法:内服

日常生活で気を付けることはありますか?

健康的な日常生活を送ることは大切です。

●規則正しい生活を続け、食事はきちんととりましょう
規則正しい生活は、体調管理の基本です。食事の時間は、服薬の時間にも関係するので、朝食を抜いたりせず、なるべく同じ時間にとるようにしましょう。

●適度に体を動かしましょう
身体を動かすことにより、体力の維持や免疫力を高めるなどの効果も期待できるため、無理のない範囲で体を動かしましょう。適切な運動量は患者さんごとに異なるため、主治医に相談してください。

●体調の変化など気になることがあったら、メモして主治医に伝えましょう
治療の経過を知るための資料にもなりますので、些細なことでも気になったことはメモやノートなどに書き留めておきましょう。

CRPCとなり、新しい治療が必要となった事については、戸惑いや不安があるかもしれません。しかし、CRPCは人によって病状や治療の経過が異なります。不安なことがあったり、眠れない・痛みがある・だるさを感じるなど、少しでも気になる症状があれば、我慢せず主治医や医療スタッフに相談してください。口に出すことが難しければ、メモに残してそれを読んでもらうことも良いでしょう。

【コラム】ホルモン療法の発見

前立腺がん治療の柱であるホルモン療法が発見されたのは、今から約80年前の1940年代の事です。カナダ出身のチャールズ・ハギンズ博士は、睾丸(精巣)を取り除く去勢手術を受けて男性ホルモンの作用が抑えられた前立腺がんの患者さんでは、がんの進行が抑制されることを発見しました。がん細胞の増殖にホルモンが深く関わっていることを突き止めたこの発見は、非常に画期的な事であり、この功績によりハギンズ博士は1966年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

チャールズ・ハギンス博士

チャールズ・ハギンス博士

監修:鈴木 和浩 先生
群馬大学大学院医学系研究科 泌尿器科学 教授