前立腺がんに関する検査
PSA検査をご存知ですか?
前立腺がんのスクリーニング検査として実施されることが多い「PSA検査」。そのトピックスをご紹介します。
そもそもPSAとは何でしょうか?
PSAは前立腺の細胞が分泌する酵素です。Prostate Specific Antigenの略で、日本語では前立腺特異抗原といいます。PSAは、精液中に分泌され射精直後のドロドロの精液をサラサラにする働きがあります。通常、血液1mL中にごくわずか(0~3.0ng*程度)しか存在しません。年齢により基準が異なる場合もありますが、一般的にはPSAが4.0ng/mLより高くなった場合は、注意が必要と考えられています1)。
*:ng(ナノグラム)は10億分の1g
なぜPSA値が高くなるのでしょうか?
PSAは、前立腺の細胞から精液中に分泌されます。しかし、何らかの異常で前立腺の細胞が壊れると、細胞内に存在するPSAが血液中へ漏れ出し、その量は壊れる前立腺の細胞が多くなるほど増えていきます。そのため、血液中のPSA値は、前立腺の異常を反映する目安と考えられます。前立腺がんでは、がん細胞自体が壊れることによって、また、がん細胞が周囲の正常前立腺の細胞を壊すことによって、PSAが血液中に漏れ出しやすくなります。実際に、PSA値が高くなるほど前立腺がんの発見率が高まることが知られています。
ただし、PSA値が高いからといって必ずしも前立腺がんとは限りません。PSA値は高齢になるほど高くなりますし、前立腺肥大症や前立腺炎などの良性の病気でも前立腺細胞が壊れることによりPSAが高くなります。
PSA値と前立腺がん発見率
PSA検査の特徴を知っておきましょう
PSA検査は、前立腺がんに対するスクリーニング検査として広く用いられています。その理由は非常に精度が高く、わずかな採血のみで手軽に行えることからです。その一方で、がん細胞の有無を直接調べるものではないため、前立腺がんがないのに陽性を示す「偽陽性」が比較的多く、グレーゾーンと呼ばれるPSA値4~10ng/mLの範囲では、偽陽性となる割合が高くなることが知られています。前立腺がんであると確定するためには、PSA検査に加えて専門医による詳しい検査を受けることが必要です。
PSA検査の特徴
簡単に実施でき、非常に精度が高い
費用が比較的安い
スクリーニング検査にも用いられる
偽陽性を示すことがある
PSA検査はいつ受けると良いでしょうか?また、どこで受けられるでしょうか?
50歳を過ぎると前立腺がんのリスクが高まるため、一般的には50歳を過ぎたらPSA検査を受けることが推奨されています1)。PSA検査を受けられる機会は主に次の3つがあります。
自治体が実施する住民検診
職場で行う検診または人間ドックのオプション検査
かかりつけの医療機関での検査
PSA検査は、がん検診や多くの自治体で実施されていますが、一部では検診メニューに含まれていないところもあります。費用等も異なりますので、詳細についてはお住いの自治体の窓口に問い合わせると良いでしょう。
なお、かかりつけの医療機関で受診する場合、自覚症状がなく検診の一環として受ける場合は自費診療となりますが、尿の出が悪いなどの前立腺がんが疑われる症状がある場合は保険診療の対象となります。まずは、かかりつけ医に相談されると良いでしょう。
コラム:PSA検査を用いたがん検診の必要性をめぐる議論
がん検診の目的は、がんを早期発見し適切な治療へつなげることで、がんによる死亡を防ぎ予後を改善することにあります。前立腺がんの検診で用いられるPSA検査も、こうした利益を期待して行われます。
しかしながら、PSA検査にも不利益があります。主なものとしては前立腺がんがないのに陽性を示す偽陽性の問題です。前立腺がんの確定診断のためには、細い針を用いて前立腺の組織を採取する精密検査(前立腺針生検)が必要なため、検査を受けることである程度は身体に負担がかかります。さらに、おとなしくて直ちに命に影響を及ぼさない性質のがんであるにも関わらず、そのようながんを発見し過剰な治療を招く問題があります。PSA検査が前立腺がんの早期発見に非常に有効であるがために、PSA検査を受けることでかえって患者さんの生活の質が損なわれる心配があります。このような観点も含めて、PSA検査によるがん検診に対する疑問の声があがり、議論の的となっていました。
こうしたPSA検査をめぐる議論を受けて、PSA検査によるがん検診の利益を検証する2つの大規模な研究調査が、アメリカとヨーロッパで行われました。その結果、アメリカでの研究では、PSA検査の利益を見いだせなかったのに対し、ヨーロッパでの研究では、PSA検査の利益が大きい、すなわち、PSA検査により前立腺がんによる死亡率が低下することを示すものでした。このように2つの大規模な研究結果が相反するものであったことから、研究結果の解釈をめぐり今も議論が続いています。
日本泌尿器科学会では、2つの研究結果や最新の知見を十分に検討した結論として、PSA検査による検診の利益の重要性を評価し、50歳からのPSA検査を用いた前立腺がん検診を行うことを強く推奨しています1)。
引用
- 1)
- 日本泌尿器科学会編集 前立腺がん検診ガイドライン 2018年版 メディカルレビュー社 2018年 P.6、47、49、54、72、186-187
ALP検査をご存知ですか?
ALPは健康診断でも測定される血液検査の項目であり、目にした事がある方も多いと思います。しかし、検査の結果ALPが高い場合、どのような状態が考えられるかをご存知の方は少ないかもしれません。前立腺がんの患者さんに対してもしばしば行われるALP検査について、簡単にご紹介します。
ALP検査とは何でしょうか?
ALPはアルカリフォスファターゼといい、リン酸化合物を分解する酵素です。ALPは通常、肝臓、胆道、腎臓、骨、腸などの細胞内に多く含まれていますが、その細胞が壊れると血液中へ漏れ出します。そのため、ALP値が上昇した場合はそれらの臓器に異常が起こったと考えられます。成人男女の基準値は、38~113U/L(IFCC法)とされています。なお、ALP測定方法は、2020年4月より準備の整った施設からIFCC法に変更されていますが、これまで日本国内で使用されていたJSCC法の場合は106~322U/Lが基準範囲です。
前立腺がんとALP値はどのような関係がありますか?
前立腺がんが転移しやすい臓器として、骨がよく知られています。前立腺がんが骨に転移すると、がん細胞から分泌される様々な物質の作用によって骨が壊れます。その結果、ALP値が上昇すると考えられていて、骨代謝マーカーともいわれます。
このことから、前立腺がんの患者さんのALP値は、骨転移を起こしていないかの目安として用いられています。ただし、ALPは様々な理由で上昇するため、ALPが高値でも骨転移を起こしているとは限りませんし、反対に、骨転移を起こしていてもALPが上昇しない場合もあります。数値だけでの判断は難しく画像診断の結果などもあわせて総合的な診断が必要ですので、ご自身のALPの見方については前立腺がんの主治医の先生に相談してください。
監修:舛森 直哉 先生
札幌医科大学泌尿器科学講座 教授