疫学について:統計からみる日本の前立腺がん
(患者数、危険因子)
日本でも増えている前立腺がん
前立腺がんは欧米人に非常に多いがんとして知られていましたが、近年は日本でも患者さんの数が急増しています。
日本における前立腺がんの罹患数(推計値を含む)の推移
このグラフは、日本において1年間に新たに前立腺がんと診断された患者さんの数(罹患数といいます)の推移です。1980年の日本人の前立腺がんの罹患数は3,944人でしたが、30年後の2010年には64,934人と16倍以上にまで増えています1)。最新のデータ(2017年)では、前立腺がんの罹患数は、日本人男性がかかるがんの第1位となり1)、約9人に1人の男性が生涯の内で前立腺がんにかかると推定されています。
2017年の罹患数(男性)
日本人男性の9人に1人が前立腺がんに!
年齢別に前立腺がん罹患数をみると、50歳以降から罹患率が急激に高まり、70歳代で最も高くなります1,2)。
年齢層別にみた前立腺がんの罹患率(2017年)
日本で増えている背景に何がある?
なぜ日本人に前立腺がんが増えているのでしょうか?背景には「社会の高齢化」、「食生活の欧米化」、「診断技術の進歩」の3つが挙げられます。
前立腺がんは、高齢になるほどかかりやすくなります2)。日本の高齢者人口は増加を続けており、このことが患者数を押し上げている一因となっています2)。また、食生活が変化して、動物性脂肪の摂取量が増えたことも関係していると考えられます3)。さらに、PSA検査の普及などによって、今まで見つからなかったごく初期の前立腺がんが見つかるようになったことも一因に挙げられます。
前立腺がんの危険因子
ではなぜ前立腺がんにかかるのでしょうか。その原因はまだよくわかっていません。しかし、数多くの研究調査から前立腺がんの発生と関係する要因(危険因子)が明らかになっています。主な危険因子は次のようなものがあります。
高齢
生活習慣(食事、喫煙など)
肥満、メタボリックシンドローム
前立腺の炎症や感染
家族歴
生活習慣との関係性では、動物性脂肪の多いことや喫煙との関係が指摘されています。特に喫煙との関係性では、1日の喫煙本数が多く喫煙年数が長い人ほど前立腺がんの発がんリスクが高まります3)。他にも、肥満やメタボリックシンドロームとの関連も指摘されています3)。
また、前立腺がんでは家族歴も危険因子の1つにあげられます2-3)。欧米の調査では、父親や兄弟に前立腺がんにかかった方が1人いる人では、本人が前立腺がんになる確率はそうでない人に比べて2倍に、2人いる人では4~5倍にまで増加するという報告があり、遺伝的な関与も示唆されています1-3)。このため、ご家族(血縁者)に前立腺がんになった方がいらっしゃる場合は、40歳代から積極的に前立腺がん検診を受けることがすすめられています2)。
前立腺がんは他のがんに比べると進行がゆっくりで予後が良いがん
前立腺がんは他のがんに比べると進行がゆっくりで予後が良いがんと言われています3)。がんが見つかった場合でも、適切な治療を受けることにより、完治を目指すことも可能です。また、前立腺がんが少し進んだ状態で見つかっても、治療法が進歩した現在では、多数の選択肢から治療法を選ぶことができるようになっています。前立腺がんで命を落とさないためにも、50歳になったら定期的に前立腺がん検診を受けることが大切です。
引用
- 1)
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)
- 2)
- 日本泌尿器科学会編集 前立腺がん検診ガイドライン 2018年版 メディカルレビュー社 2018年 P.6、10、18-25
- 3)
- 日本泌尿器科学会編集 前立腺癌診療ガイドライン 2016年版 メディカルレビュー社 2016年 P. 10、14-19、24-26、99-109
- 4)
- 全がん協加盟施設の生存率協同調査 https://kapweb.chiba-cancer-registry.org/full
監修:舛森 直哉 先生
札幌医科大学泌尿器科学講座 教授