ベタフェロンとはどんな薬ですか?
ベタフェロンは、2日に1回、患者様ご自身で皮下に注射していただく在宅自己皮下注射製剤です。MSの炎症は慢性的な免疫バランスの異常によって引き起こされると考えられています。1日おきに注射することで血液中の反応物質の濃度を一定に保つことができます※1)。その結果、免疫バランスが正常に保たれ、優れた治療効果が期待できます。
またベタフェロンは高度な遺伝子工学を用いて生成された薬剤で、効果、安定性に優れています※2)。そのため室温保存が可能ですので、室温が30℃以下では冷蔵庫に入れる必要はありません。またベタフェロン溶液はpHがほぼ中性(生理的)であるため、薬剤の刺激を抑えることができます。
参考文献:
※1) | GARY J.WILLIAMS and PATRICIA L.WITT:JOURNAL OF INTERFERON AND CYTOKINE RESERCH 18:967-975(1998) |
※2) | Gary Walsh著:丸善株式会社発行 たんぱく質ハンドブック:313 |
どのような効果があるのですか?
ベタフェロン療法は免疫を調節するように働くため、免疫バランスが正常に保たれます。ベタフェロン療法により、後遺症として残った病気の症状を治癒させることはできませんが、以下のような効果から、将来のMSの自然経過をより良い方向に変えることができると考えられています。
ベタフェロンの効果:
再発回数を減少させます※1)
再発までの期間を延長します※1)
再発があっても、その重症度を低下させます※1)
症状の進行を抑制します※2)
新しい病巣ができるのを抑えます※3)
また、インターフェロンベータ療法は、MSの炎症性活動を抑えるだけでなく、軸索障害にも保護作用を示すことが証明されています※4)。軸索は再生機能が乏しいため、一度障害されてしまうと後遺症として残ってしまいます。
参考文献:
※1) | The INFB Multiple Sclerosis Study Group: Neurology43:655-661(1993) T.Saida, Japan, et al.:Neurology64:621-630(2005) |
※2) | European Study Group on Interferon β-1b in Secondary Progressive MS:The Lancet352:1491-1497(1998) |
※3) | Stone, L.A., et al.:Neurology49:862-869(1997) |
※4) | S.Narayanan, et al.:J Neurol248:979-986(2001) |
日本人MSに対しても効果がありますか?
ベタフェロンは日本でも大規模な臨床試験が行われました。 その結果、再発の回数を少なくし、再発と再発までの期間を延長して寛解期のよい状態を長くし、新しい病巣ができるのを抑える効果が確認されています※1) 。
参考文献:
※1) | T.Saida, Japan:NEUROLOGY64:621-630(2005) |
どのような副作用がありますか?
ベタフェロン療法を開始した際には、注射したあとに風邪をひいたときのような症状(発熱、悪寒、筋肉痛、関節痛など)が発現することがあります。これらの症状の出方や程度は患者様によりさまざまです。発熱などの症状は注射3~6時間後に発現し、通常24時間以内に改善します。 このような症状に対しては、就寝前に注射することによって症状による影響を抑えることができます。非ステロイド抗炎症剤の服用も有効です。
ベタフェロンを1日おきに投与していると血液中の反応物質の濃度が一定に保たれるようになり、風邪をひいたときのような症状は、ほとんどの患者様で「慣れの現象」が現れ、自然にその発現率や程度は低下していきます。投与開始6ヶ月後にはほとんどの患者様で自然に軽快しています。
またインターフェロンベータ製剤のような免疫系を調整する作用のある薬物を注射すると、注射した部位で局所免疫反応が起こることがあります。この反応は注射した部位が赤くなったり、少し痛くなったり、腫れたりする原因となります。ごく稀に重症になり、皮膚に強い反応が出たり、感染したりすることがあります。 これらの症状が起こる原因は、誤った自己注射法(同一部位への注射の繰り返し、冷たいインターフェロン溶液の使用、注射時に手が震えるなど)、注射部位の日光や紫外線への曝露、薬剤の刺激性などがあります。
これらは正しい注射法をマスターし、同じ注射部位に続けて注射しないこと、そしてベタコネクトなどの自動注入器の使用などで、リスクを抑えることができます。
なぜ1日おきに注射するのですか?
多発性硬化症の治療で使用されるインターフェロンベータはごく微量であるため、血液中の薬剤の濃度を正確に測定することができません。そのため身体がインターフェロンベータに反応しているかどうかを見るための指標としてネオプテリンという生体内の反応物質を測定します。
その結果、筋肉内注射と皮下注射ではネオプテリンの反応はほぼ同じで、この効果は3~4日程度しか持続しませんでした※1)。しかし1日おきに注射することで血液中のネオプテリンの濃度を維持することができ、優れた効果を持続させることができました。
ベタフェロンは上記のような理由から1日おきに注射をします。
参考文献:
※1) | GARY J.WILLIAMS and PATRICIA L.WITT:JOURNAL OF INTERFERON AND CYTOKINE RESERCH 18:967-975(1998) |
なぜ皮下注射するのですか?
インターフェロンは、免疫能を調節する働きをもつ、元来人の体内で作られるタンパク質です。そのままでは胃の中で分解されてしまうため、経口薬にすることができません。
皮下注射では皮下脂肪層に薬剤を注入しますが、血管や神経終末がほとんどないため、血管や神経終末を傷つける可能性が低く、また注射時に強い痛みを伴うことは少ないと考えられています。現在日本で販売されている多くの自己注射製剤で皮下注射という投与方法が選択されています。
また筋肉内注射と比較したときに、ネオプテリンの反応の強さと持続時間に差は認められませんでした※1)。
ベタフェロンでは在宅で安全に自己注射できるように皮下注射という投与方法が選択されています。
参考文献:
※1) | GARY J.WILLIAMS and PATRICIA L.WITT:JOURNAL OF INTERFERON AND CYTOKINE RESERCH 18:967-975(1998) |
どのくらいの期間続けますか?
ベタフェロンはMSの再発回数を減らし、症状の進行を抑制する効果があることがわかっています※1)2)。また、脳の磁気共鳴画像(MRI)検査では、病巣の増大を抑制することが認められています※3)。これらの治療効果から将来のMSの自然経過をより良い方向に変えることができると考えられています。
ベタフェロン療法を開始するとすぐに、免疫バランスを調整するように働きます。しかし上記のような治療効果は短期間で判断することが難しいため、一定の投薬期間(少なくとも6ヶ月~1年程度)が必要だと考えられています。
ベタフェロンをご使用中の患者様:
現在ベタフェロンをご使用中の患者様では、ベタフェロンは免疫バランスを調整している薬剤ですので、投与を中止するとその効果も消失します。治療の中止にあたっては、主治医の先生と相談した上で、慎重に決定されることをお勧めします。
現在ベタフェロンの長期追跡調査が欧米諸国で行われており、ベタフェロンを投与された患者様における、長期的な有効性および安全性が示唆されています。このことからインターフェロン療法を受けられていて、副作用等の問題がない場合にはできるだけ継続することが望ましいと考えられています 。
参考文献:
※1) | T.Saida, Japan:NEUROLOGY64:621-630(2005) |
※2) | The INFB Multiple Sclerosis Study Group: Neurology43:655-661(1993) |
※3) | Stone, L.A., et al.:Neurology49:862-869(1997) |
長期間治療を継続した安全性のデータはありますか?
1988年~1993年に北米で実施された臨床試験に参加された患者様を対象とし、16年間および21年間の追跡調査が行われています。ベタフェロンが長期にわたり有効であり、かつ安全性が高いことが示されています。
また現在、海外では20年にわたりベタフェロンを使用し続けている患者様がいらっしゃいます。
ベタフェロン療法を続けているとMSが完治しますか?
後遺症として残った病気の症状を治癒させることはできませんが、前述したような効果から、将来のMSの自然経過をより良い方向に変えることができると考えられています。
ベタフェロン療法を開始して再発や症状の進行が止まる人もいますが、病気が完治しているわけではありません。患者様ご自身のお考えで使用を中止しないでください。
ベタフェロン投与中に再発することはありますか?
ベタフェロン療法は再発の回数を減らして症状の進行を抑制する目的で行います。免疫系を調節して、中枢神経系でMSの炎症がおこるのを阻止するように働いています。しかしベタフェロン療法を行っていても完全に再発を予防できるとは限りません。
再発に対してはステロイドパルス療法などの急性期治療を行います。ベタフェロンはステロイド剤と併用できます。多くの場合、ベタフェロンの投与量・投与時間を変更する必要はありません。
ベタフェロンをはじめるときには入院しますか?
外来に通院しながらベタフェロン療法をはじめることは可能ですが、正確な注射手技の習得や副作用の対処などの理由から、短期間の教育入院をすることがあります。インターフェロンベータ療法の投与初期にみられる風邪にかかったときのような症状(発熱、悪寒、倦怠感、関節痛など)の感冒様症候群などの副作用に対して早期に適切な対応が行え、患者様やご家族が安心感を得ることができるからです。
また主治医や看護師から副作用の対処法を学ぶことができ、治療への不安を取り除くことができます。導入初期から患者様ご自身が比較的よくみられる副作用をあらかじめ知っていること、またその対処法について理解していることで副作用への不要な不安を軽減することができます。