2018-2019 総括レポート

もっと話そう前立腺がん転移のこと
くらしを守る早期対応のすすめ

開催の経緯

前立腺がんは進行の遅いことが多いといわれますが、他方で転移を起こす割合が高いことはあまり知られていません。「がんが転移しないか」は前立腺がん患者さんとご家族にとってご不安なことです。

バイエル薬品は、患者さんが早期から再発・転移について正しく理解し適切に対応することが、生活の質(QOL)を損なわないために必要であると考え、前立腺がん患者・家族の会「NPO 法人腺友倶楽部」、「認定NPO 法人キャンサーネットジャパン」と協力し、2017年から前立腺がん転移についての啓発セミナーを共催してきました。

治療を続ける中で、転移についてはどのようなことに気をつければよいか。このセミナーでは、前立腺がんの転移について知りたい方(患者さんおよびご家族)を主な対象に、いつもの生活を守るための心得をお伝えしています。また、前立腺がんでは泌尿器科と放射線科の両科による治療機会が少なくありません。そのため、2018年からは演者として泌尿器科医だけでなく放射線科医もお招きし、またアンサーパッドを用いた来場者参加型のセミナーに発展させました。本レポートでは、両科の専門医のご協力のもと開催した過去2年間のセミナーについてまとめました。

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セミナー開催への想い

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認定NPO法人キャンサーネットジャパン

インターネットの普及により、どこにいてもがんの医療情報を得ることが可能ですが、高齢者が多い前立腺がんの患者さんにとって、正しい情報を取捨選択するのは困難です。地方では患者向けセミナーの数も少なく、また同じ病気の患者同士が集まる機会も多くありません。企業のサポートを受けながら、NPOや患者会が、中立の立場で医療者とがん患者さんを繋ぎ、正しい情報と集う場を提供する意義は大きいです。

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NPO法人腺友倶楽部

前立腺がんの治療法は多岐にわたり、泌尿器科・放射線科の領域に及んでいますが、患者がひとつの医療機関で両科の治療を受けられるとは限りません。しかし私たち患者が治療方針の説明を受けるのは、多くの場合ひとりの泌尿器科医からです。患者によっては治療選択の悩みや後悔が生じる原因のひとつにもなり得ます。こうした状況を改善するには、診療科の横の連携と、広い視野での情報提供、そして患者も学ぶことが欠かせないと思われます。

開催概要

開催場所

2018年~2019年の2年間で全国7都市(福岡、岡山、札幌、高松、東京、宮崎、金沢)

参加人数

861名(福岡144名、岡山145名、札幌93名、高松127名、東京192名、宮崎67名、金沢93名)

このセミナーでは来場者にアナライザー( アンサーパッド)をお配りし、会場でのアンケートに任意でご参加いただいています。

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PROGRAM

講演1

前立腺がん転移について知ってほしいこと(演者:泌尿器科医)

講演2

転移の早期発見・治療のために放射線でできること(演者:放射線科医)

講演3

治療と向き合う上で大切なこと~骨転移を体験して~(演者:前立腺がん骨転移経験者)

グループワーク

参加者(テーブルごとに講演内容について話し合い、質問を書き出す)

Q&Aディスカッション

登壇者全員(司会進行:NPO法人腺友倶楽部 理事長 武内 務 氏)

開催年月開催場所座長/司会*1講演①*1講演②*1講演③後援
2018.6福岡江藤 正俊 先生
九州大学大学院 医学研究院
泌尿器科学分野 教授
塩田 真己 先生
九州大学病院
泌尿器・前立腺・腎臓・副腎外科 講師
大賀 才路 先生
九州大学病院
臨床放射線科 助教
川﨑 陽二
前立腺がん骨転移経験者
2018.9岡山渡邉 豊彦 先生
岡山大学大学院
医歯薬学総合研究科
泌尿器病態学 准教授
荒木 元朗 先生
岡山大学大学院
医歯薬学総合研究科
泌尿器病態学 講師
勝井 邦彰 先生
岡山大学大学院
医歯薬学総合研究科
陽子線治療学 准教授
川﨑 陽二
前立腺がん骨転移経験者
2018.9札幌永森 聡 先生
北海道がんセンター
副院長
丸山 覚 先生
北海道がんセンター
前立腺センター長
西山 典明 先生
北海道がんセンター
放射線診療部長
川﨑 陽二
前立腺がん骨転移経験者
北海道・札幌市
2019.6高松杉元 幹史 先生
香川大学医学部
泌尿器科学 教授
上松 克利 先生
三豊総合病院
泌尿器科 部長
柴田 徹 先生
香川大学医学部附属病院
放射線治療科 教授
川﨑 陽二
前立腺がん骨転移経験者
香川県・高松市
2019.8東京武内 務
NPO法人腺友倶楽部
理事長
佐藤 威文 先生
佐藤威文前立腺クリニック
院長
中村 和正 先生
浜松医科大学医学部
放射線腫瘍学講座 教授
堀内 隆
前立腺がん骨転移経験者
「Japan CancerForum 2019」*2
共催セッション
2019.9宮崎賀本 敏行 先生
宮崎大学医学部
発達泌尿生殖医学講座
泌尿器科学分野 教授
寺田 直樹 先生
宮崎大学医学部附属病院
泌尿器科 講師
楠原 和朗 先生
宮崎大学医学部附属病院
放射線科 助教
川﨑 陽二
前立腺がん骨転移経験者
宮崎県
2019.10金沢溝上 敦 先生
金沢大学大学院 医学系研究科
集学的治療分野
泌尿器科 教授
泉 浩二 先生
金沢大学附属病院
泌尿器科 講師
高松 繁行 先生
金沢大学附属病院
放射線治療科 科長
堀内 隆
前立腺がん骨転移経験者
石川県・金沢市

*1   ご登壇当時のご所属を記載しています。

*2   主催/運営:認定NPO法人キャンサーネットジャパン、後援:厚生労働省、 東京都、 中央区、 国立がん研究センター

セミナーの開催地は、共催団体で検討しながら決定しています。
また、当日の運営には現地のNPO団体様、ボランティアの方々がご協力くださっています。

 

前立腺がんの骨転移の頻度は80%以上とされていますが、その頻度の高さは前立腺がん患者さんであってもあまり知られていないことがわかりました。

 

セミナー聴講前、全体の半数以上の方が骨転移の頻度は50%以下と考えていました。また、前立腺がんの患者さんであっても、骨転移の頻度については、他の参加者と同様にあまり認知されていないことが示唆されました。

 

Q進行した場合、どのくらいの頻度で骨転移を起こすと思いますか?

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痛みなどの骨転移の症状は患者さん本人にしかわからないため、少しでも違和感があるときには主治医に伝えることが重要です。また、早期発見のためには転移についての知識を身につけておくことが大切です。

前立腺がん患者さんのうち、約4割の方が現在の主治医と転移について話したことがないという結果でした。セミナー聴講後は、約3~5割の患者さんが「転移に関する可能性のある症状や対処法について主治医と話してみたい」と思っていました。(病状によっては、主治医の判断であえて転移についての説明をされない場合もあります)

Q前立腺がんの転移について、現在の主治医との間で話題になったことがあればその内容を教えてください。

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患者さんによる複数回答(投票数:371)

Q本日のセミナーに参加して、次回の受診時に前立腺がん転移について主治医と話してみたいと思ったことを教えてください。

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患者さんによる複数回答(投票数:336)

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治療と向き合う上で大切なことは「小さな症状でも訴える」ということ

現在も介護福祉士として就労しています。前立腺がんになってからというもの、苦しかったこと、辛かったことはたくさんあります。骨転移の痛みで夜も1週間眠れなかった経験もありました。私のように「これは職業的なもの」といった勝手な自己判断はしないでください。

転倒したら骨折、というのも皆さんよりリスクが大きいのでそこも注意をしなければなりません。どんな名医でも骨に対する痛みはわかりません。小さな痛みでも(痛くなくても骨のあたりがかゆいと思ったくらいでも)医師に伝えることが大切で、その訴えによって最適な治療を先生が施してくれると思っています。がんや治療に向き合う上で、QOL(生活の質)を保つことも心掛けています。QOLを落とす治療に対しては前向きになれません。

川﨑 陽二 氏
川﨑 陽二 氏

2012年2月、前立腺がんステージ4(骨転移・リンパ節転移)の診断を受ける。本業は介護職であり、治療と就労の両立の他、徳島県内を中心に「がん患者支援・がんの啓発」、小中高校への「がん教育講師」などを行っている。

国の「がん対策基本法」では、「がん患者の置かれている状況に応じ、本人の意向を十分尊重してがんの治療方法等が選択されるようがん医療を提供する体制の整備がなされること」を基本理念のひとつに掲げています。

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前立腺がんは、転移をしても他のがんと比べて長いつきあいになるがんです。長くつきあう上では、治療の効果だけでなくQOLを保つことが重要であり、そのためには患者さんと医師の十分なコミュニケーションが必要です。

しかしながら、インターネット調査では、医師にQOLを気にしてほしいという方が約7割であったのに対し、実際に主治医と話し合ったことがある方は約2割にとどまっていました。一方で、QOLについて話し合った際には、約8割の方が主治医から何らかの助言や提案を受けていました。

QOLの問題は患者さんご自身からの発信が重要です。国の「がん対策基本法」1)では患者さんの意向を十分に尊重したがん医療提供体制の整備を基本理念のひとつに掲げていますので、ご自身の意向を積極的に主治医に話してみましょう。

主治医への伝え方に悩まれる患者さんは、まずは、「私がどうしても優先したい(続けたい)もの(こと)は________です」2)というようにお話ししてみてはいかがでしょうか。

治療と向き合う上で大切なことは「強い気持ちで臨む」ということ

みなさんへのメッセージは、「診察も、相談も、強い気持ちで臨む」ということです。そこに生きる覚悟を問われていると思っています。私の場合、旅行の計画をいろいろ立て、それを実現するために主治医とのコミュニケーションを取ってきました。

大事なのは、自分がやりたいことを「絶対やるんだ」という気持ちだと思います。そうしないと、コミュニケーションも消極的になり、計画自体もすごく小さいものになってしまいます。

堀内 隆 氏
堀内 隆 氏

現職の会社員。2016年10月、前立腺がんステージ4(骨盤・脊椎への多発転移)の診断を受ける。2018年6月にがん患者の「思い」を共有する活動グループを立ち上げ、より多くの人に語り掛けたいと願い活動をしている。

前立腺がん豆知識

ALPの測定方法の変更に伴い、基準範囲が変更になります3)

2020年4月1日より準備の整った施設から測定方法の変更が開始されます

そもそもALPとは?

ALP(アルカリフォスファターゼ)とはリン酸化合物を分解する酵素で、肝臓、骨、小腸、腎臓、胎盤など全身の臓器に広く分布しています。これらの臓器に異常があると、ALPが血液中に漏れ出し、血液中の値が高くなります。前立腺がんが骨に転移した場合にも、血液中のALPの値が高くなることがあるため、骨転移があるかどうかの参考になります。

どのように変更になるの?

これまで日本国内で使用されていたALP の測定方法(JSCC法)が、世界的に普及している測定方法(IFCC法)に変更になります。それに伴い、ALPの基準範囲が“106~322U/L”から“38~113U/L”へと、約1/3に変更になります。

基準範囲(成人男女)

現行測定法(JSCC法):106~322U/L

新測定法(IFCC法):38~113U/L

JSCC:日本臨床化学会、IFCC:国際臨床化学連合

インターネットによる前立腺がん患者さんの意識調査より

患者さんひとりひとり、治療中に重視していることや知りたいタイミングは異なります。
大切なことですので、遠慮なさらず主治医や医療スタッフにお話しください。