今後は分子標的治療薬の有用性も期待される

――甲状腺がんに対する分子標的治療薬にはどのような効果がありますか?
 

伊藤 分子標的治療薬は、従来の抗がん剤のように正常細胞にダメージを与えることが少なく、がん細胞をピンポイントに攻撃するように開発された薬剤です。正常細胞であれば適切な細胞数になったところで細胞の増殖が止まりますが、がん細胞では「増殖せよ」という信号が出続ける異常な現象が起きているため、無限に増殖し続けます。また、がん細胞が増殖するためには酸素や栄養が必要なため、近くの血管から新たに血管を作成し(血管新生)、そこから栄養を取り込みます。分子標的治療薬は異常な信号の伝達や血管新生に関わる蛋白(分子)をブロックすることでがん細胞の増殖を抑制します。
 

――どのような患者さんが分子標的治療薬の対象となるのですか?
 

伊藤 乳頭がんや濾胞がんの患者さんにRAI治療を行った際に、放射性ヨウ素の甲状腺がんへの取り込みがない場合やRAI治療による効果がみられない場合などをRAI治療抵抗性と言います。分子標的治療薬はそのような患者さんに使用されます。 RAI治療抵抗性の甲状腺がんは、今まで効果的な治療法がなく予後も不良でした。しかし臨床試験において、RAI治療抵抗性の甲状腺がんに対する分子標的治療薬の有用性が認められたため、実際の治療に使用できるようになりました。
 

――分子標的治療薬の服用後はどのようなことに気をつければよいのでしょうか?
 

伊藤 従来の抗がん剤に比べると脱毛、白血球や血小板の減少といった副作用が起こる可能性は低いですが、分子標的治療薬に特有の副作用が起こることがあります。具体的には手足症候群(手や足の皮膚の細胞が障害されること)や高血圧、下痢などが知られており、副作用の現れ方には個人差があります。しかし、分子標的治療薬の使用前から副作用対策をしっかりと行い副作用が現れるのを防ぎ、副作用が現れた場合でもその症状をコントロールできれば治療を継続することが可能です。副作用は早めの対処が重要ですので、服用後に気になる症状が出た場合は医療機関を受診し、医師に相談してください。
 

図10. 分子標的治療薬の作用

図10. 分子標的治療薬の作用