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きちんと食べる-気分が良くなる

健康的でバランスの取れた食事をとることは、とても大切です。MS(多発性硬化症)患者さんの中には、買い物や料理、食べることなどが困難であり、食事の内容や食べ方に大きく影響を与えている例もあります。

このページでは食事に関する情報と、役立つヒントをご紹介します。

About nutrition
recommended diet
MSに勧められる食事とは?

MSに勧められる食事は、一般的に健康的な食事として勧められているものと変わりありません。その目的は、必須脂肪酸、抗酸化物質、葉酸、ビタミンB12をバランスよく摂取することにあります。

  • 調理にはラードを避けて、植物性油(ひまわり油、えごま油(しそ油))などを使用する
  • 積極的に魚を献立に取り入る(理想的には週に5~6回以上)
  • 低脂肪の乳製品、たとえばスキムミルク(脱脂乳)や低脂肪乳を使う
  • 鶏肉(皮をむいたモモ肉、ムネ肉、ささみなど)、脂身の少ない赤身の肉を選ぶ
  • 濃い緑色の葉野菜1皿を含め、1日に果物・野菜を5~6皿食べる
  • ソーセージ、ベーコン、ハンバーガーなど、動物性脂肪含量の高い加工食品を避ける
  • 脂肪と砂糖の多いケーキ、チョコレート、クリームを避ける
  • 調理方法は油で揚げるのではなく、直火で焼く、蒸す、ゆでる、オーブンで焼くなどの工夫をする
  • 玄米や全粒粉のパン、シリアルを取り入れる
  • 水分は主治医と相談の上、多めに取るようにする
  • 栄養補助食品(ビタミンサプリメントなど)で栄養を補足してもよいが、主治医と相談する
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献立の立て方

実際に献立を立てるにはどのようなポイントがあるのでしょうか?

毎日の献立を考えるときに悩んだことも多いでしょう。以下に日常の献立についてのポイントをご紹介します。

日常の献立のたて方・考え方・ポイント

  • 主食:米飯、食パン、麺類など
  • 副食:主菜、副菜、汁物

    -主菜:肉、魚、卵、豆腐(付け合せ…温野菜、生野菜)

    -副菜:和え物、酢の物、煮物、炒め物

    -汁物:味噌汁、清汁、けんちん汁、スープ

About nutrition
  • 主食は米、パン、麺類などからいずれかを選びます。
  • 副食の主菜(メインの食材)は、魚、肉、卵、大豆製品の中から1~2品選び調理法を考えます。
  • 主菜が決まれば副菜は、野菜類(海草、きのこ、こんにゃくも含む)を主体に芋類・豆類・ 糖質の多い野菜や魚・肉・卵・大豆製品も適宜組み合わせて、和え物、酢の物、煮物、炒め物、汁物を考えます。
  • 油脂類、味噌、砂糖などは、調理に応じて用います。
  • 果物、牛乳は、献立に応じて朝・昼・夕の3食または間食として用います。
  • 味付けはうす味とし、医師の指示がある場合には1日の食塩指示量を守ります。
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MSと食事に関する研究

食事とMSの進行との関連性を見つけるために多くの研究が行われています。現在までに、ある特定の食事が再発寛解型の再発率に影響する、または二次進行型の進行速度を変化させるという報告はありません。その中で、2種類の栄養素*1からいくらか利益が示された研究があります*2*3*4

必須脂肪酸

必須脂肪酸とは、身体が健康のために必要とするが体内で作ることはできず、食事から取り入れなければならない脂肪のことです。すべて不飽和脂肪酸であり、脳組織とミエリン鞘の構造の重要な部分となっています。

このような必須脂肪酸の中で最も広く利用されているものはリノール酸です。ひまわり油やサフラワー油に多く含まれ、n-6系脂肪酸と呼ばれています。もう1つの種類の必須脂肪酸はn-3系脂肪酸であり、魚油とえごま油(しそ油)に含まれます。

このような必須脂肪酸により、MSなどの自己免疫疾患における炎症反応を変化させることができます。

抗酸化物質

私たちが肺から取り込んだ酸素は、全身の細胞に運ばれ、そこで生きるために必要なエネルギーが作られます。この過程では副産物として、フリーラジカルと呼ばれる他の分子と非常に反応性の高い酸素化合物が大量に作り出されます。

また、日光や都市汚染にさらされることでもフリーラジカルが産生されます。フリーラジカルはミエリンを含む様々な身体の組織と反応し、そこで損傷を起こします。

通常、食事の中には、このようなフリーラジカルを排除する抗酸化作用を持つビタミンとミネラルが含まれます。

  • ビタミンE-脂溶性、マーガリン・バター・生の果物などに存在
  • ビタミンC-水溶性、生の果物・野菜などに存在
  • ビタミンA(β-カロテンとして)-脂溶性、レバー・生の果物・野菜などに存在
  • セレン-必須ミネラル、穀物製品・魚・卵・チーズ・肉などに存在
嚥下障害

嚥下障害とは、噛むことや飲み込むことが困難になる障害です。嚥下障害は、しばしば言語障害を伴います。食事中に咳が出たりむせたり、また誤嚥性肺炎を起こすことなどからわかります。

このような症状が出現した場合には、特別な食事が必要となることがあります。具体的には症状の重症度に応じて食物を細かく切ったり、つぶしたり、裏ごししたり、または液体にとろみをつけたりします。しかしこのような食事は刺激が少なく食欲が低下し、体重が減少することがあります。そのため栄養の補足として、栄養補助食品が必要となることがあります。

また重症な例では栄養チューブから栄養補給する必要があります。

Dysphagia

写真提供:北祐会神経内科病院

便秘

便秘はMS患者さんにとっては身近な問題です。一般には便秘とは、排便が順調に行われないことをいいます。寝たままの状態や運動不足では、腸の運動(腸蠕動)は低下します。また食物繊維や水分摂取が不足していると便秘になります。

  • 朝食を食べる前まで(起床後すぐ)にコップ一杯の冷水を飲む
  • 食物繊維の多い食品 (下記参照)をとる
  • 十分な水分をとる
  • よく噛んで食べる
  • 便意をもよおしたらすぐにトイレに行く
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骨粗しょう症

骨粗しょう症とは骨密度が低下して、骨がスカスカになる病気のことをいいます。女性では閉経後ホルモンバランスが大きく変化するため、骨の量が急激に減少します。そのため骨粗しょう症になる人の割合が高くなります。

また男性は女性に比べると、骨粗しょう症になる割合は低いですが、加齢により腸管からのカルシウム吸収が低下するため、高齢になると骨粗しょう症になる割合が高くなります。

また上記の原因以外でもMS患者さんの場合では、ステロイド剤での治療経験がある場合が多く、骨が少しもろくなっていることがあります。以下のようなことを心がけましょう。

  • カルシウムを多く含む食品をたくさんとる
  • ビタミンDをたくさんとる
  • ビタミンK2を多く含んだ食品を積極的にとる
    (一部医薬品と併用すると不都合がありますので、主治医の先生にご確認ください)
  • 栄養バランスの良い食事をとる
Osteoporosis
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ステロイド療法中の食事

ステロイド剤の副作用には、消化性潰瘍ができやすくなる、感染症にかかりやすくなる、体重が増える、むくむ、食欲が増す(肥満にもつながる)、骨がもろくなる(骨粗しょう症の項参照)などがあります。

ステロイド剤を服用中は空腹感が強いからといって食べすぎないように注意してください。

参考文献

  1. Payne A. Nutrition and diet in the clinical management of multiple sclerosis. Journal of Human Nutrition and Dietetics 2001; 14: 349-357.
  2. Dworkin RH, Bates D et al. Linoleic acid and multiple sclerosis: a reanalysis of three double-blind trials. Neurology 1984;34:1441-1445.
  3. Warren G, McKendrick M, Peet M. The role of essential fatty acids in chronic fatigue syndrome. A case-controlled study of red-cell membrane essential fatty acids (EFA) and a placebo-controlled treatment study with high dose of EFA. Acta Neurologica Scandinavica 1999;99(2):112-116.
  4. Bates D, Cartlidge NEF et al. A double-blind controlled trial of long chain n-3 polyunsaturated fatty acids in the treatment of multiple sclerosis. Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 1989;52:18-22.